第106話 どらま(萌花)

 その女の子には、仲のいい幼なじみがいる。

 仲のいい……というよりも、仲が良すぎると言った方がいいだろうか。

 幼なじみはスキンシップ旺盛で、いつだって女の子のどこかしらに触れていた。


 女の子が「少し恥ずかしいよ」と照れくさそうに言っても、「えー、いいじゃん」と嬉しそうに言って聞かなかった。

 幼稚園児の時も、小学生の時も、中学生や高校生になっても……ずっと一緒にいた。


 喧嘩をした日もあれば、食べ物をお互いにシェアした日もあり、そして……キスをした日も。

 全ての思い出が愛おしく、とても手放すことなんてできやしない。


 笑いあったあの時。泣きあったあの時。一緒に悩んだあの時。すれ違ってしまったあの時。そして――


 ――事故が起こったあの時。

 あれは、何年前の話だっただろうか。


 ☆ ☆ ☆


「――と、いう内容のドラマがもうすぐ始まるんですって!」

「え、あ、そうなんだ……」


 萌花が息巻いて喋ると、美久里はその迫力に気圧された。

 萌花は恋愛系のドラマが好きで、男女の恋愛はもちろん、男同士や女同士の恋愛ドラマもよく見る。

 最近までは『しょたずラブ』という少年たちの熱い恋愛ドラマにハマっていたらしい。


「BLも好きなので『しょたずラブ』は悶え死にましたね〜! とくに誰もいない教室でのキスシーンとか!」

「あー、萌花って腐女子なところあるもんね。まあ、気持ちはわからなくないけど……」


 興奮しすぎて声のボリュームがなかなかに大きく、クラス全体をざわつかせたのだが、萌花はそのことに気づいていない。


「まあ、今はさっき話した百合ドラマに興味あるので、雑食? っていうんですかね。そんなところです」


 萌花は色々なジャンルを、広く浅く楽しんでいる。

 基本的に何か一つに集中することはない。

 だが、まほなれとなると話は別だ。


「まほなれもドラマやってくれたらいいんですけどね〜」

「それな〜。絶対面白いのに……」


 しかし、まほなれは言うまでもなく魔法少女ものだ。

 ファンタジーなもののドラマ化は厳しいだろう。


「まあ、とりあえずさっき話した幼なじみものを観てみてくださいね!」

「わ、わかったよ。萌花がそこまで言うなら……」

「さすが美久里!」


 そんな話をしながら、今日もまたいつものような一日がスタートする。

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