第105話 かきたいもの(葉奈)

「お、これは……」


 葉奈が部屋の掃除をしていたら、懐かしいものを発見したようだ。

 表紙には黒髪の女の子が四人の女の子にくっつかれている絵が描かれている。

 これは、昔葉奈が書いた同人誌の二冊目である。


「へぇ、そういえばこんなのも書いてたっすね……懐かしい……」


 葉奈は絵が上手いため、表紙も自分で描いたものだ。

 紫乃ほどではないにせよ、趣味でたくさん絵を描いている。


「同人誌だから際どい内容多いっすね……確かこれも……」


 この同人誌のタイトルは、『百合ハーレムが大好きです!〜しかし主人公には興味なくなりました〜』である。

 趣味で書いていた小説のスピンオフ作品だ。


 ☆ ☆ ☆


 朱美を取り合っていがみ合っていたのも今は昔。

 今は互いを“恋人”として認識している。

 ……のだが、お互い喧嘩腰なのは変わっていない。


「あおちゃん! また私の化粧品勝手に使ったの!?」

「ピーチクパーチクうるさいですわね。そんなに使って欲しくなかったら名前でも書いておくことですわね」

「思いっきり書いてあるけど!?」


 ギャーギャー喚く美桜をよそに、蒼衣はおもむろに立ち上がって服を脱ぎ捨てる。


「あ、あおちゃん……な、なにして……」

「いつも見慣れてるくせに何を赤くなっているんですの?」


 蒼衣は美桜を挑発する。

 艶やかな肢体と態度に、美桜は完全に口を閉じ、蒼衣に身を委ねた。


 ☆ ☆ ☆


「自作を読み返すのってなかなか恥ずかしいものがあるっすね……」


 いたたまれない気分になりながらも、最後まで目を通す。

 我ながらいい出来ではないかと、葉奈は思う。

 そもそも、出来が良くないものを同人誌としては出さないのだが。


「書きたいものを存分に書いたっすからね。その意味では良作っすよ、うん」


 と葉奈は自分に言い聞かせ、本を閉じる。

 これからも、書きたいものを書いていけるだろうか。

 趣味で書いていたものを出版社に拾ってもらってここまで来たが、正直今のままやっていけるか不安なのである。


 だが、ふと彼女たちのことを思う。

 こんなにも熱烈なファンがいるのなら、当分は問題なさそうだ。

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