第108話 しまいのほん(美久里)

 どこにでも居そうなとある双子。

 しかし、その双子だけは特別だった。

 双子は双子なのだが――婦妻でもあるのだ。


「ねぇ、私の下着どこに隠したの?」

「知らない。お姉ちゃんこそ私の化粧品勝手に触らないでよ」

「……お姉ちゃん、じゃないでしょ?」

「え、でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだし……」

「だーめ。私たち結婚してるんだから〜」

「うっ。わ、わかったよ…………あ、あなた……」

「っっっ!!」

「ちょっ、お姉――あなた!? 鼻血がっ! 大丈夫!?」


 ドタバタと騒がしい日々。

 なんでもない普通の毎日。

 だけどなぜか、婦妻というだけで特別なものであるように感じた。

 双子という関係性の頃とほとんど変わらない毎日でも、二人は幸せを噛み締めているように見える。


 ☆ ☆ ☆


 そんなような内容の本を、美奈の部屋で見つけてしまった美久里。

 美奈が出かけている間に部屋を掃除しようとしていたのだが、その本のインパクトが強すぎて掃除を再開することができない。


「も、もしかして……私ともそういう関係を望んでいたりするのかな……」


 美久里はドキドキしっぱなしで、美奈がどういう関係を望んでいるのか気になった。

 やはり、この本のように『婦妻』だろうか。

 だが、現実世界で姉妹は結婚できない。


「あ、でも……望んでるってだけのことだし、そういう関係になりたいって思うのは自由だもんね……」

「……何してんの?」

「ふおわっ!?」


 あれこれ考えているうちに、美奈が帰ってきたようだ。

 そして、例の本が床に置いてあることに気づかれる。


「あー……それ、見ちゃった?」


 美奈が恥ずかしそうに頬をかきながら訊く。

 上手く言い訳出来なかった美久里は、正直に顔を縦に振る。


 そして、きまずい雰囲気になってしまった。

 美久里も美奈も、どう出ようか必死に考えている。

 その時、考えがまとまったらしい美奈が床に置いてある本を手に取って、中身を確認しながら言う。


「もしかして、私がおねえとこんな関係を望んでると思ったの? そんなわけないじゃん。私はただ、おねえともっと仲良くなりたいだけだよ」

「えっ、そうなの? 勘違いしてたよ……ごめんね」

「いいって。あ、そうだ。今日豆腐ハンバーグ買ってきたから一緒に食べよ」

「わー! ありがとー!」


 豆腐ハンバーグというワードで、美久里は戸惑いや罪悪感が消え去った。

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