第103話 ゆめのはなし(紫乃)
「……ねーちゃん、いつまであたしの手握ってるつもりだ?」
理沙は訝しげに問う。
やめてほしいわけではないが、少しこそばゆい。
だが問われた沙友理は、あまり意識せずに理沙の手を弄ぶ。
「んー、こうしていないと“恋人”としての実感が湧かないのですよ。だからいつまででも握っているのです」
「……あっそ」
沙友理は、未だに恋愛としての“好き”がよくわかっていない。
だが、理沙が強引に付き合ってくれとせがみ、無理やり姉妹から恋人になったのだ。
そんな、一歩間違えれば儚く砕け散るような淡い関係。
それでも、理沙はいいと思った。
沙友理がこんなにも一生懸命“恋人”としていようと頑張ってくれているから。
☆ ☆ ☆
「――という夢を見たのですよ」
「……へぇ〜」
紫乃はまたも、ラベルが特殊な自動販売機のそばで沙友理と出会った。
一期一会とはよく言ったものである。
「で、その夢がどうしたの〜?」
沙友理が何を言いたいのか、紫乃にはいまいち意図が汲み取れなかった。
自分たちが恋人のように仲良しだと伝えたいのだろうか。
紫乃は一人っ子で兄弟がいないため、少し羨ましく思った。
「うーん……こんな夢を見てよかったのかなぁと思っているのですよ」
「え、なんで〜?」
「だって、理沙とは姉妹なのです。勝手に恋人設定にしちゃってなんだか申し訳ないと言いますか……」
どうやら、沙友理は持たなくて良い罪悪感で悩んでいたらしい。
沙友理の心の大半は優しさで出来ているのだろう。
そういうところも“お姉ちゃん”なのかと思うと、紫乃は自然と笑顔になった。
そして、自然と優しい言葉が紫乃の口から放たれる。
「いいんじゃないかな〜。所詮は夢なんだし。それに、沙友理先輩と妹さんが仲良いの、今の話だけですごく伝わってきたから罪悪感を持つ必要なんてないと思うよ〜?」
そう、所詮は夢だ。
夢の内容よりも、現実の自分がどうしたいのかが重要である。
沙友理は紫乃の言葉を受け取り、「それもそうなのです」と笑う。
沙友理と話していると、なぜか紫乃は心が落ち着く。
それはきっと、馬が合うとかそういうものなのだろうと思う。
紫乃はまた沙友理と合う約束を取り付けて、スキップをしながら家に帰った。
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