第102話 よてい(美久里)

「皆さん、あと数週間後に一年生最後のテストがあるから、今から少しずつでも勉強してくださいね〜。その後に楽しい春休みを過ごせるように頑張ってください」


 担任の寺田先生はとても笑顔で、生徒にとって気分が落ち込むような話をしていた。

 テスト……まだ数週間も余裕があるとはいえ、今から気が重くなる。


 ちなみに、美久里の成績は中の下。

 高校に入ってから幾度となくテストを受けてきたが、いつも平均点行けばいい方だった。


 しかし、中学の時よりは比較的いい点数が取れているため、中学よりはレベルが低いのだろうと思う。

 受験する時もあまり勉強せずに受かったし。


 しかし、赤点を取って春休みに補習というのは避けたいところ。

 美久里は春休みに予定があるわけではないが、長期休暇の時に学校で勉強をしたくないという気持ちがある。


 今年は、どんな春休みになるのだろう。

 みんなと会えるだろうか。

 夏休みも冬休みも会わなかったから、きっと会えないのかもしれない。


 美久里はそれでもよかった。

 会えない時間が、次会えた時の楽しみを倍にしてくれるから。


 そんなこんなを考えていると、すでに寺田先生はいなくなっていて、一限目の日本史の先生が来ていた。


 早く教科書出さなければならない。

 あの先生は、よく生徒を当てるから。


 美久里が机の中から教科書を取り出すと、いつの間にか机の上に綺麗に折りたたまれたルーズリーフが置いてあった。

 それを手に取り、周りを見渡すと朔良と目が合う。

 まさかこれ、朔良がくれたのだろうか。


 前にも似たようなことがあったことを思い出しつつ、楽しそうに口角を上げている朔良が寄越したルーズリーフを開く。

 そこには、『もし良かったら春休みにみんなでどっか行こうぜ』と書かれている。

 美久里はそれを見ると、すぐさま返事を書く。


『うん、行きたい! 絶対行く!』


 その後、美久里はずっと頬が緩んだまま授業を受けていた。

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