第95話 わるいゆめ(瑠衣)

「もう終わりにしよう」


 この一言で、全てが終わる。

 楽しかった出来事も、一緒に苦難を乗り越えた思い出も、辛くて思い出したくない記憶まで。

 全て、なかったことにされてしまう。


「元気でな」


 そう言って、朔良の足音が遠ざかっていく。

 必死に手を伸ばしても届かない。

 こんなにまで人を好きになったのは初めてなのに。

 どうして朔良は遠いところへ行こうとしているのか。


 ――行かないで。

 自分の中のどす黒い感情が一気に溢れ出してきた。

 ――嫌だ。一人にしないで。好きって言ってくれたのに。瑠衣以外の人と付き合うのだろうか。

 ――それなら、もういっその事……


「あなたを××してもいいよねぇ?」


 ☆ ☆ ☆


 そこで目が覚めた。

 汗が皮膚に張り付き、なんとも言えない嫌悪感を生み出している。


「……はぁ、なんであんな夢……」


 汗と混ざって別の液体も流れているようで、不快感が半端ない。

 なぜあんな夢を見てしまったのか、瑠衣は本気で悩んだ。

 いつもはどんなに長く寝ていても、夢なんて見ないから。


「とりあえず顔洗いに――」


 と動いたところで、スマホに目がいく。

 そのスマホの画面には、『瑠衣ちゃんは私のこと好きじゃないんでしょ!? もういいよ!』とある。

 もしかしたらこれが原因かもしれない。


「にゃはは〜……やっちゃったにゃあ……」


 その文章を送ってきた子のことは、瑠衣にはどうでもよかった。

 瑠衣は自分でも薄情なことを自覚している。


 それはともかく、もしこれと同じように朔良に振られたらと思うと、夢に見てしまうほどショックだったらしい。

 不思議と、付き合っている人たちよりも朔良たちに嫌われる方が、ずっとずっと嫌なのだ。

 なぜなのかは、瑠衣にもわからない。


「も、潮時かもにゃ……」


 瑠衣は不特定多数の女の子たちと付き合うのをやめ、友情に生きようと決意したのだった。

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