第93話 どうじんし(葉奈)

 遊びに来ていた紫乃の部屋で、やばいものを見つけてしまった。

 どれぐらいやばいかと言うと、黒歴史を唐突に思い出すことと同じぐらいではないだろうか。


 面白そうな本がないかと思い、本棚を見ていたのだが。

 一部だけ妙に薄い本があったから、まさかとは思っていたのだが……


「……よりによって、昔うちが出してた同人誌っすか……」


 それは、葉奈が昔売っていた同人誌。

 しかも、覚えている限り、内容は少しアダルティーな部分が含まれている。

 紫乃がこれを買っていたことを、葉奈は知らなかった。

 何しろ、客の相手はほぼ売り子に任せ切りだったのだから。


「どういう内容だったか……うろ覚えなんすよね……」


 そこで、葉奈はその禁断の本を開いてしまった……


 ☆ ☆ ☆


「……俺、結衣のことが好きなんだ」

「へ、へぇ……そうなん――って、え!?」

「だから……いいよな?」


 魔央は頬を赤く染めて、結衣に迫る。

 その上、呼吸も荒くなっているため、傍から見ればただの変態でしかない。

 まあ、普通に変態ではあるのだが。


「え、あ、あの、いいって何が――ひゃう!」

「結衣の翼……めっちゃ触り心地いいな……ほんとにどうなってんだ……」


 魔央は、結衣の翼を触っているだけだ。

 それなのに、結衣は敏感なところを触られているかのような反応を示す。

 だからか、魔央の嗜虐心が目を覚ました。


「うぁんっ! あぁ……っ! や、やめ……ひぅんっ!」


 魔央の手つきが完全に一変し、弱いところを探し出したのだ。

 その度に、結衣の翼も身体もビクンと跳ねる。


「んんっ……! や、だ……これ、変な……感じがする……ふぁっ!」

「それは、“気持ちいい”って言うんだぜ」

「そ、そんなこと……うあぁっ! も、もう限界だよぉ……」

「結衣ならまだまだいけるだろ? ――あむっ」

「ひゃあああ!」


 魔央に羽を咥えられたことで、結衣は一層気持ちよさそうな嬌声をあげた。

 その反応を、魔央は見過ごさなかった。


「……へぇ? これがいいんだ。じゃあもっとやってあげるからな。――あむあむっ」

「……ふぇ? ――あっ。だ、だめぇ……くせになっちゃう……」


 ――魔央の攻めに、完全に堕ちた結衣。

 そんな結衣は、もう抑えられなかったのか、膝から崩れ落ちて地面に突っ伏す。


「もうへばったのか? 根性ねぇなぁ……」

「……えへへ、ごめんね。でも……ちょっと、良すぎて……」

「へ〜え? こういうのが良いのか〜。へぇ〜」


 魔央は結衣の弱点を知って、満足そうに笑う。

 ――二人は迷子になったことも忘れ、幸せな時間を過ごした。


 ☆ ☆ ☆


 本をバタリと閉じ、葉奈は目を瞑る。

 そして本を元に位置に戻し、動揺を隠しきれるように深く息を吸い込んだ。


「……見なかったことにするっす」


 ハイライトのない瞳で、葉奈はスルーを決め込んだ。

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