第74話 どうわ(葉奈)

 むかしむかし、あるところに一匹のりゅうがいました。

 そのりゅうはこどくで、いつもひとりぼっちでした。

 だけど、りゅうは友だちをつくりたいと思っていました。


 ある日、りゅうは人間のまちに行くことを決め、つばさを広げました。

 そして、人間のまちに来たりゅうは、さっそく人間たちに声をかけようとしました。


 しかし、怖がられてばかりで、りゅうは友だちができませんでした。

 りゅうはかなしくて、ずっと泣きつづけました。


 それからりゅうは、ひっこしをくりかえしました。

 何度も何度も……


 友だちができる日を、夢みて……


 ☆ ☆ ☆


「そういえば、まほなれに出てくる『りゅうのかなしみ』が本当に絵本になってるんだよね」

「そうなんだよね〜! 僕も初めて知った時は驚いたなぁ〜」


 放課後。

 美久里と紫乃は学校近くの本屋に寄っていた。

 二人は童心に返ろうとしていたようで、絵本や童話を漁っているときに思い出したらしい。


「うちもオファーが来た時はまじかって思ったっすよ」


 葉奈は二人の会話に入り、お気に入りの童話を棚から持ち出す。

 そして、二人にその童話を見せる。

 二人は訝しげな表情でその童話を見ていたが、中身を見てハッと目を見開く。


「こ、これ……」

「うん……『りゅうのかなしみ』に似てるような……」


 その童話のタイトルは、『ドラゴンさんは愛されたい』である。

 表紙には、哀愁漂う小さなドラゴンが載っている。

 物語を要約すると、「孤独に悩むドラゴンが愛を求めて旅立つ話」だ。

 確かに『りゅうのかなしみ』と似ている。


「この本、大好きなんすよね。この本からインスピレーションを受けて『りゅうのかなしみ』が生まれたんすよ……懐かしいなぁ」


 どこか嬉しそうに、『ドラゴンさんは愛されたい』を眺めている。

 それほどまでに大好きなのだろう。

 素晴らしい作家が、次の未来ある作家を育てたのだ。

 その事実に、美久里と紫乃は顔を見合わせて微笑んだ。

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