第73話 ふしぎなゆめ(紫乃)

 着物を纏い、おぼつかない足取りで町を歩いている。


(……年老いたもんだな)


 それもそのはず、4000年も生きていればガタが来るだろう。

 しかし、周りから見れば幼女と何ら変わらない。

 尻尾を揺らし、長い髪を靡かせながら店に入る。

 店員に「可愛いね〜」とか「アメいる?」とか聞かれる始末だ。


 ――本当に鬱陶しい。


「わしを誰と心得る!」


 そう叫びながら、身体の形を変える。

 人の形から、本来の――龍の姿へと変貌した。

 小さく出ていた角が大きくなり、尻尾は身体の一部となった。


 着物が破け、散り散りになる。

 そして、その破けた着物の奥から鱗が見え、全体が大きく長くなる。


 店の壁やら屋根やらが崩れ、その形を失った。

 体長……軽く5m以上はあるだろう“それ”は、無感情な目で店や店員を眺める。


(……やっぱりか……)


 店員はガタガタと震えていたり、目を丸くしてポカンとしている。

 傷一つ付けられない自分に腹が立ってくる。

 紫乃は絶対に、“人”を傷つけることが出来ない。


 ☆ ☆ ☆


「はぁ……なんか変な夢だったなぁ〜」


 まほなれのキャラである明葉がもし本物の龍だったら、と考えていたからだろう。

 明葉が変身すると、和服になって龍の角と尻尾が生えるのだ。

 昨日まほなれを一気見したせいもあるかもしれない。


「でもなんで僕が龍なんだろ〜……」


 どうせなら、ちゃんと明葉が龍になってくれたら良かったのに。

 だけど……悪くはなかったようだ。

 嬉しそうに少し口角を上げているから。


「あ、そろそろ学校行かなきゃ〜!」


 そして、みんなにこの夢を話したい。

 みんなならただの夢でもちゃんと聞いてくれて話を広げてくれるだろう。

 だからこそ、みんなといて心地いいのだ。

 ここまで友だちといて楽しいなんて思ったことがなかった。


 一人じゃなんでもないことも、みんなとなら盛り上がれるかもしれない。

 学校へ向かう道がとても輝いて見えるのは、きっと気のせいではないのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る