第72話 あくむ(美久里)

「いやあああ!! …………あれ?」


 気がつくと、美久里は自分の布団で寝ていた。

 よほどうなされていたのか、汗がものすごく出ている。


「あれは、夢…………?」


 未だ混乱している脳を放っておくことにした。

 美久里はとりあえず顔を洗おうと思い、布団から抜け出す。


「あ、おねえ。おはよう……」


 えへへ、と自分の妹が照れくさそうに笑っている。

 美久里はまだ朝で頭も回っておらず、夢の出来事もあって混乱しているせいか、軽く思考停止の状態だった。

 キャパオーバーしているのだ。


「美奈……だよね? 本当に美奈??」

「え、おねえどうしたの?」


 そうやって、美久里は美奈の身体を確かめるように触る。

 訝しげな様子の美奈だったが、触られることに関してはされるがままだった。


「あー、よかった……本物の美奈だ……」


 美久里は泣きそうになりながらも続ける。


「……怖い夢を見てさ、ちょっと不安なんだよね。美奈がいなくなっちゃうんじゃないかって。美奈のこと……大好きだから」


 嗚咽を漏らしながら、必死に、懇願するように、力強く言った。


「美奈っ……こんな私を……どうかっ……見捨てないでっ」

「……見捨てないでって……どういう……?」


 やっと、思考が追いついたところで美奈が言葉を挟む。

 美久里はもう、涙で顔がくしゃくしゃになっている。


 涙に濡れている顔は少し美しかった。

 しかし、泣くことに意識を持っていかれているようで、美奈の問いには答えなかった。


 「おねえ」


 代わりに美奈が言葉を紡ぐ。


 「おねえの言ってることとか、泣いてる意味とか、わからないことだらけだけど……確実に言えることがひとつだけあるよ」


 ふぅ、と一息。


 「私も……おねえのことは好きだよ……」


 ふんわりと柔らかい笑みを浮かべる。

 美奈の今世紀最大の笑顔である。

 ……いや、それは少し大層だったかもしれない。


 だけど、それでも美久里は安心したようで、もう泣くことはなかった。

 代わりに笑みをひとつ。


 静かな光が二人を包んだ。

 それは神が降臨したが如く、とても神秘的で、とても美しかった。

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