第67話 むかし(美久里)
美久里が10歳で、美奈が7歳だった時。
美奈がおてんばで、今よりも美久里がお姉さんっぽかった頃のお話。
☆ ☆ ☆
住宅の一つ――とある小さなアパートに、二つの小さな影が見えた。
「美奈ー! ちゃんと髪を乾かした方がいいよ? 早くおいで?」
「いーやーだー! じっとしてるの苦手だもん! それにすぐ乾くよ!」
「こら……! 逃げないの!」
騒がしく走り回る二つの影。
その一つが美奈と呼ばれた少女。
美奈はじっとしているのが苦手で、すぐにドスンドスンと暴れ出す。
もう一つの影の正体は、美久里という少女。
美久里はお姉さんらしくしっかりしており、美奈と一緒になって暴れることはない。
二人は公立の小学校に通う普通の小学生。
いつもは親がいる時間帯なのだが、今日はどちらもいないのだ。
帰りが遅くなると以前から知らされていたので、特に思うところはない。
夜ご飯も用意してもらえていたし、戸締りもしっかりしている。
ただ、まだあまり遅い時間でないとはいえ、ここまで騒がしく走り回って居たら近所迷惑だろうと思った美久里は、美奈を追いかけ回すのをやめた。
その様子を不思議に思った美奈は、美久里と距離を置きながらも、おそるおそる美久里に話しかけた。
「お、おねえ……? なんで追いかけるのやめたの……?」
「んー、別に? これ以上無理強いしない方がいいと思って。だって美奈はお姉ちゃんのことが嫌いなんでしょ?」
「ち、違っ…………!!」
美奈は声を震わせ、俯きながらながら涙目になる。
その瞬間、美久里はニヤリと笑った。
そして、美奈を安心させるように優しく諭すように言う。
「ほーらぁ、美奈。ちゃんと髪を乾かした方がいいよ? お姉ちゃんが美奈の髪を乾かしてあげるからさ」
「うっ……うぅ……わかったよ」
言葉が出なかったのか、美久里に近づき髪を乾かせとせがむ。
そんな美奈を母親のような笑みで見つめ、美久里は美奈の髪を乾かした。
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