第60話 えんぎ(瑠衣)

 演劇は好きだし、興味もある。

 だけど、演技は好きじゃない。必要だからするものだ。

 人間関係というのは日々演技の連続で、疲労ばかりが募っていく。


「はあぁ〜……疲れたにゃ……」


 ――誰にも嫌われたくない。面倒事を起こしたくない。

 そんな思いから、瑠衣は本音を隠して生きてきた。


 八方美人になろうとしている点では、萌花とよく似ているだろう。

 萌花と違うのは、初めから誰かと深入りしたがっているという点だ。

 ……だけど。


「めんどくさいにゃあ……」


 基本面倒くさがりで、本音を言うことに抵抗がある。

 ラインの通知を見ながら、瑠衣はため息をつく。

 『なんで返事をくれないの!?』という文面が、ノリで仲良くしている人からやってきた。


 瑠衣は人当たりがよく、誰とでも仲良くなれるのだが、決して優しいわけではない。

 自分でも愛が重い方だと自覚しているが、飽きてしまったら元も子もないだろう。

 だからこそ、ほどほどの距離感がいいのだ。


「なんでわからないんだろうにゃあ……」


 瑠衣はそう呟いて、見なかったことにする。

 その直後。タイミングを見計らったようにして、ラインの通知が来た。

 あの子だろうかと思ったけど、送信者は朔良だった。


『お前、明日空いてるか? みんなでファミレス行くことになったんだけど、お前も来るか?』


 サバサバした文面で、執着を感じない。

 そう、これだ。これぐらいの距離感がちょうどいい。


『空いてるにゃ。瑠衣も行きたいにゃ!』


 返事を送り、ベッドへダイブする。

 なんだか心が軽い。

 澱んでいた心が浄化されていくようで、なんだか心地よかった。


「あー、楽しみだにゃー!」


 そう叫んだ後、眠気に負けて瞼を閉じた。

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