第51話 おんせん2(朔良)

 部屋を出て、エレベーターに乗る。

 一階に大浴場があるのだが、朔良たちは最上階に向かっていた。

 なぜなら、最上階には屋上露天風呂があるからだ。


 最上階に着くと、すぐ目の前に温泉が待ち構えていた。

 『女』という暖簾がかかった方の引き戸を開けると。


 やまとなでしこのような、綺麗な黒髪が目の前を横切る。

 艶のあるきめ細やかな黒髪に、自然と目がいってしまう。

 その黒髪の持ち主がこちらを見た。


「も、もしかして……さくにゃん?」


 その声には聞き覚えがあった。それに、この特徴のある呼び方。間違いない。

 声優のような可愛らしくよく通る声。むっちりとした肉付きのいい身体。子猫のような丸い瞳に、桜色の頬と唇。

 あの頃となんら変わらない、精巧にできた人形のような少女。


「……瑠衣、か?」

「そう! そうだにゃん! ここで会うなんて嬉しいにゃ!」


 恥じらいなんてないのか、瑠衣は下着姿で飛び跳ねる。

 飛び跳ねるたびに、たわわに実った立派なものが激しく揺れた。

 桃色の淡い下着が、それを押さえるのに必死なように見えた。

 なんだか同情の念が湧いてくる。


「瑠衣は一人で来たのか?」

「そんなわけないにゃ。お母さんたちは旅館探検に行ってるにゃ」

「なるほど」


 つまり親の方が子より大分アグレッシブなのだ。

 そこは朔良と同じらしい。


「そうにゃ! 一緒に入ろうにゃ! さくにゃんのお母さんも一緒に!」

「え、でも、あたしは――」

「おー、いいね。入ろ入ろ」

「聞けよ!」


 朔良は自分の話を聞く気がないらしい母親にツッコむ。

 なぜ母親はこんなにも子どもっぽいのか。あ、瑠衣もか。

 早速服を脱ぎ出す母親を見て、朔良はため息をつく。


「……まあ、いいか」


 そして、朔良も服を脱ぎ出す。

 当然ながら、下着しか身につけていなかった瑠衣が、先に温泉に入っていく。

 朔良も急いで生まれたままの姿になる。


「さくにゃーん!」


 瑠衣が嬉しそうに手を振ってくれる。

 それを見ていると、温泉に入っている時のような満ち足りた気持ちになるのだった。

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