第50話 おんせん(朔良)
いつものようにゲームをしながらダラダラ過ごしていると、唐突に「温泉に行こう!」と親に誘われた。
誘われたというよりも、強引に連れ出されたと言った方がいいだろう。
朔良の分の着替えや、他の用意も既に準備してくれていたようだ。
それなら最初から言っておいてほしい。
唐突すぎて展開についていけない。
「ま、いっか」
だが、深く考えないことにした。
温泉は嫌いではないので、それはそれでいいと思ったからだ。
そんな気持ちで車に乗り、外の景色を楽しむ。
それは、一時間ほどで終わってしまった。
「結構近いところにあるんだな……」
温泉というから、有名どころの遠い場所をイメージしていたが、意外と近くにもあるようだ。
ここは有名どころではないようだが、なんだかワクワクする。
昔ながらの和風な造りの建物で、いかにもな『旅館』である。
辺りは家よりも木の方が多い。
のどかな景色で、心が安らぐ。
「おーい、置いてくよー」
「わっ! 置いてくなよー」
母親に声をかけられ、朔良は我に返る。
もう少しだけ魅入っていたかったが、そうもいなかい。
メインが景色というわけではないのだから。
「では、どうぞごゆっくり」
チェックインを済ませ、部屋に案内された。
和風な外観に似合う畳張りの部屋で、朔良はホッと安堵する。
外観が和風であっても、部屋にベッドが置かれていることもあるからだ。
あれはとても落ち着かない。
「よーし、早速メインを楽しもー!」
「えー……まだ早くね?」
壁にかけられた時計を見ると、ちょうど四時半だった。
風呂にはまだ早すぎる。
だが、子どものように飛び跳ねる母親を見て、朔良の方が折れる。
「じゃあ、行くか……」
朔良が呆れ気味にそう言うと、母親の目が宝石のように輝く。
その様子を見ていると、不思議と口角が上がるのだった。
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