第52話 ねこかぶり(葉奈)
入学式から2〜3日経った日のことを思い出す。
その人が“朔良”という名前で呼ばれることを知らなかった頃。
愛想のいい笑顔を振りまく朔良を見て、思わずその言葉が口をついて出た。
「あんた、猫かぶってるっすよね?」
葉奈はできるだけ、言葉にトゲがないように気をつける。
だが、言葉のチョイスがあまりにも直接的すぎて、鋭く響いてしまった。
でも、後悔はしていない。訊きたかったことを訊いただけなのだから。
「……お、お前……なんでわかったんだ?」
意外そうに目を見開くも、隠す気はないらしい。
知られたら知られたで構わない、そんな気持ちが見て取れる。
「んー、勘ってやつっすかね」
「なんだそれ」
そう恍けると、朔良は演技ではない笑顔を見せる。
どこか軽かった印象が、等身大の人間という印象に変わった。
いつもそうやって笑えばいいのに、と葉奈は思う。
「そっちの方がいいっすよ」
葉奈がそう言って笑うも、朔良は苦しそうに笑うだけだ。
自分をさらけ出すことが嫌なのだろうか。
まあ、それはわかる。葉奈も人前で全裸になることには抵抗があるから。
……何か違うか。
「なんだろーな。お前が初めてだよ。猫かぶってるの見抜かれたのも、素の方がいいって言われたのも」
朔良は頭をかきながら、困ったように笑う。
先ほどの苦々しい笑顔は、反応に窮していたかららしい。
初めて自分の素を見抜いた人ということなのかは知らないが、朔良は葉奈に懐くこととなる。
だが、この時の葉奈にはそんなこと知る由もなかった。
「ふっ、うちが特別な力を持っているってことを見せつけちゃったっすね」
「何言ってんだ、お前」
今はただ、普通に笑い合うだけでいいのだ。
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