第38話 しゅうようかい4(朔良)

 日も暮れ、いよいよ夜ご飯の時間になる。

 その前に、お祈りをしなくてはならない。


「面倒臭いよな〜。事ある毎にお祈りなんてさ」

「まあ、たしかにここまで来るとあれだよね……」

「ん〜、でも仕方ないんじゃない? ここキリスト教の学校だし〜」

「まあ、そうだろうけどさ……」


 朝にお祈り、昼食時にお祈り、夜にお祈り……

 いい加減辟易してくる。

 なぜこの学校を選んだのかと、今更ながらに後悔していた。


「あ、萌花ちゃんとシスターが前に出たっすよ」


 ここは、どこかのパーティ会場のような、社交会が行われそうな厳かな場所。

 円形のテーブルに、白いテーブルクロスがかけられている。

 今にも司会の人が出てきそうな壇上に、萌花とシスターの姿があった。


「……なぁ、あいつ……祈りの本上下逆にしてないか?」


 緊張しているのか、萌花の身体は小刻みに震えている。

 その手には『祈りの本』という藍色の、祈りの歌や祈りの言葉が書かれている本がある。

 その本が上下逆さまになっているのだ。

 ……これは、大丈夫なのだろうか。


「え、えっと……あ、あれ? ――あ」


 萌花は『祈りの本』を逆にしていたことにやっと気づいたようで、慌てて元に戻した。

 そして、耳まで真っ赤にさせて顔を伏せる。

 それ自体は可愛いのだが、これでは何も進まない。


 お腹が空いて、早く祈りの言葉を言ってくれと言いたくなってしまう。

 そんな萌花の状態を見かねたシスターが代わりに祈りの言葉を言ってくれた。


「……よ、よかったな……」

「……よかった、って言うんすかね……?」


 何はともあれ、ご飯が美味しかったから良しとしよう。

 ご飯が美味しければ、なんでも許せるものだ。

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