第36話 しゅうようかい2(萌花)

 大きな荷物をバスに放り込んで、決められた座席に着く。

 高校で初めての大きな行事に、萌花は心が躍った。

 隣には朔良がいて、後ろには葉奈や紫乃や美久里がいる。

 こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろう。


「なんか、萌花嬉しそうだな」

「……ふぇっ!? あー、いや、その……宗養会楽しみだなと思いまして……」

「まあ、たしかにそうだよな。しかも全員同じグループになったしな」


 そう。朔良の言う通り、事前にグループ分けがあった。

 ……あった、のだが。幸運にも五人グループで全員同じグループになることが出来たのだ。

 これはもはや、“運命”と呼ぶべきなのかもしれない。


「おーい、お二人さん。これ食べる〜?」

「おー、紫乃ちゃん! サンキュー」

「ありがとうございます!」


 紫乃が後ろから手を出し、朔良と萌花にお菓子を差し出す。

 この茶色くて甘い匂いが漂うこれは、チョコレートだ!


「お、美味しい……」

「あはは。萌花ってなんでも美味しそうに食べるよな」


 萌花は渡されたチョコレートを口に入れ、舌で転がす。

 すると、口いっぱいにチョコレートの甘みが広がり、萌花の顔が自然と緩む。


 それを目撃した朔良は、羨ましそうに笑った。

 萌花のようになんでも美味しいと感じられたら、とても幸せそうだと思ったのだ。


「もぐはむもむむ……」

「すまん。何言ってるかわかんねぇ」


 萌花が食べながら何かを話しているが、朔良には伝わらなかった。

 食べるか喋るかどっちかにしろ、というツッコミが聞こえてきそうだ。

 チョコレートが完全に消え去ったところで、萌花はさっき伝えたかったことを口にした。


「本当に美味しいです!」

「わ、わかったから落ち着け。顔が近い」


 萌花は興奮気味に、ずいっと朔良に顔を近づける。

 すると、朔良は萌花から逃げるようにして身体を遠ざけ、両手で「どうどう」と落ち着かせる。

 そんな朔良の様子を見て、萌花は我に返った。


「ご、ごめんなさい……つい……」


 萌花は顔を赤く染め、素早く顔を元の位置に戻す。

 微妙な空気になってしまった二人だったが、不思議と嫌な気はしないのだった。

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