第33話 ねこ(葉奈)

「これ……一体どういう状況なんですかね……?」

「分からないっす……けど、壮観っすね……」


 場所は校庭。……の隅っこ。

 桜の木々がひしめき、青々とした葉が風で踊るすぐ下。

 木にもたれかかり、遠くを見つめる二つの影がある。


 その視線の先には、無数の猫たちの群れがあった。

 猫たちはどこかを見て、まるで誰か……何かを探すように動き回っている。


「なんでこんな事になっているんでしょうか?」

「さぁ? それよりも……」


 ちらっと葉奈が一瞥した先には、先ほどから肩を上下させて鼻息を荒くさせている紫乃がいた。

 紫乃は猫を見て、顔や目を輝かせている。


「えっと……紫乃ちゃん? どうしたんすか?」


 葉奈がそう言い、紫乃に近づく。

 すると、紫乃の肩が震えているのがわかった。


「……紫乃ちゃん?」


 葉奈が違和感を感じ、紫乃へ再度声をかける。

 だが、葉奈の声が届いていないようで、紫乃は不穏なオーラを纏いながら猫の方へ近づいていく。


「ふふふ、猫ちゃん……もふもふ……たくさん……」

「なんか怖いっす! 紫乃ちゃんが壊れたっす!」

「えええ!? 紫乃ちゃんに何があったんですか!?」


 紫乃が、変な意味で最高の笑顔を浮かべた。

 思わず誰もが後ずさってしまいそうなほど、変態的な顔をしている。


 葉奈は紫乃のそばから離れ、萌花にしがみついた。

 萌花は何が何だか分からずに狼狽えている。

 だが、そんな時――


「にゃーお」

「うわあ! い、いつからそこにいたんすか!?」


 突然、葉奈の足元から鳴き声がした。

 そこを見ると、真っ白なスタイルのいい猫がいた。

 その猫はゴロゴロと喉を鳴らし、スリスリと頬ずりをしている。


「おぉ……葉奈ちゃんって猫に好かれやすいタイプなんですね……」

「そ、そうなんすかね……? 自分ではよく分からないっす……」


 葉奈は猫の甘えにどう反応していいか分からず、されるがままの状態だ。

 だが、不思議と嫌な気はしない。

 その白い猫に感化されたのか、他の猫たちも葉奈へ寄っていく。


 ……しかし。

 先ほどから射殺すような視線を感じる。

 勇気を振り絞って振り返ると、そこには殺意の炎を渦巻かせた紫乃が。


「葉奈ちゃん……僕の猫ちゃんとったね〜……?」

「いや、これは違うっす! っていうか、いつから紫乃ちゃんの猫になったんすか!?」


 紫乃がかつてないほどの殺意を浴びせると、葉奈は全力で逃げた。

 萌花はそんな二人に困惑し、おろおろすることしか出来ない。

 ただその中で猫たちだけが、のんびりと昼寝をしていた。

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