第20話 ひとごみ(美久里)

 美久里は後悔していた。

 とても。すごく。かなり。後悔していた。

 なぜ休日にこんなに人のいる街中へ来てしまったのか……


「うっ……人多い……」


 美久里はグロッキーになり、その場に倒れそうになる。

 だが、間一髪で引き止められた。


「もー、おねえ弱すぎ! これぐらいなら大丈夫でしょ?」


 妹が美久里の腕に抱きつき、上目遣いで訊いてくる。

 コミュ障の姉と違い、妹はコミュ力が高くて友だちが多い。

 そのためか、こういう街に出かけることも多く、人混みには慣れているのだ。


「うぅ……やっぱ無理だよぉ……」


 美久里は涙目で周囲を見回す。

 どこを見ても、人、人、人。

 いい加減酔いそうになる。


「む、無理……なんていうかもう……人がゴミに見える……」

「…………おねえ、本当に病院行った方がいいよ? 眼科行った方がいいよ?」


 美久里が放った余計な一言に、妹はまさにゴミを見るような眼でツッコんだ。

 妹は顔色の悪い姉を見て、ため息をつく。


「……はぁ、大丈夫かな……」


 今日外へ出かけたのは、姉と一緒に遊びたい思いもあったが……それだけではない。

 姉の人混み嫌いを克服させたかったのだ。

 だけど、こんな調子ではそれは無理そうだと諦めた。


「もっとお姉ちゃんと一緒に色んなとこ行きたいのにな……」

「ん? 何か言った?」

「えっ! あ、な、なんでもないよ!? それより早くパンケーキ食べに行こー!」

「え……? あ、うん……そうだね?」


 妹は姉の腕を引っ張りながら人混みの中を進んでいく。

 その顔が紅く染っていることに気づいている人は、どこにもいなかった。

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