第21話 にゅうよく(美久里)

 お風呂は人類が生み出した至高の文化だと思う。

 日々の疲れや嫌なことを洗い流してくれるから。

 洗い流してくれるだけでなく、心も満たしてくれる最高の文化。


「――だと、私は思うわけですよ」

「……いや、真っ裸でそんなこと言われても……」


 美久里は妹と一緒にお風呂に入っている。

 小さい頃から何度も一緒に入っているから、全く抵抗感がない。

 ……のだが、妹には少し不満があった。

 それは――


「でさ、『裸の付き合い』って言葉があるように、お風呂というのは――」

「うん、わかった。わかったから一回止まろ!?」


 妹が暴走を止めると、美久里はしょぼんとした顔で身体を洗う。

 すると、妹は安堵のため息をつく。

 お風呂に入ると、姉は別人のように豹変するのだ。

 それに辟易するというか、付き合いきれないというか……


「……ね、ちょっと……た、助け……」

「おねえー!?」


 妹が考え事をしていると、美久里は泡だらけになって身体が見えなくなっていた。

 姉を救出すべく、妹は慌ててお湯をぶっかける。


「ふぃー……た、助かった……」


 一命を取り留めた美久里は、冷や汗をかきながら安堵の表情を浮かべる。

 美久里の命を救った妹も、何やら謎の達成感があった。


「はぁ……気をつけなよ、おねえ」

「う、うん……ごめんね……」


 本気で心配している妹に、美久里は頬を掻きながら謝る。


「やっぱり美奈みながいないとだめだね……」

「……そんなことはいいから、身体洗ったらそこ退いて」

「あ、ご、ごめん……!」


 姉――美久里が照れくさそうな笑みを浮かべるも、妹――美奈は普通にいつも通りの様子だ。

 その様子に、若干寂しさを覚える美久里だったが、美奈は嬉しそうに口角を上げていた。

 要するに――美奈は素直じゃないのだ。

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