第12話 しすたー(美久里)

 萌花から聞いた話によると、この学校ではシスターが授業をすることがあるようだ。


 カトリック系の女子校なので、校内でシスターを見かけることはよくあるし、シスターが校門前で朝の挨拶をしていることもある。

 それだけでも貴重な体験なのに、その上シスターが授業!?


(す、すごいなぁ……)


 美久里はそんな在り来りな感想しか浮かばなかった。

 シスターが授業をすることに対して、小・中学校の経験からは考えられないことだから。

 イメージ出来ないし、なんだかすごく不安になる。

 初めての経験というものは、なんであっても期待と不安が入り交じる。


「はーい。席についてくださーい」


 そのシスターの姿は、聖母のようだった。

 シスター特有の清楚感や綺麗さが、オーラとして放たれている。

 この人が自分悩みを聞いてくれたら、それだけで心が軽くなるだろう。

 それぐらい、包容力が高そうに見える。


「では、授業を始める前にこれだけは言っておきますね」


 にっこりと微笑み、その人の周りに花が舞う。

 ……なんだろう、この人のオーラは。

 気を抜けば全てをさらけ出してしまいそうになる。


「皆さんにキリスト教徒になってくれとは言いません。強制も、もちろんしません。なので気軽に授業を受けてくださいね」


 この人の言葉は、無条件にすごく安心出来る。

 この人こそが聖母マリアなのではないかと疑ってしまうほどだ。

 あたたかくて心地よい優しげな声に、身を委ねてしまいそうにな――


「ですが、神は私たちの中におられます」


 ――……はい?

 このシスターは、今なんと言った?


「神に全てをさらけ出しましょう。神は私たちの全てを許してくださいます。さあ、さあ!」


 美久里や他の生徒たちの困惑を置き去りに、シスターはどんどん一人で突っ走っていく。

 そして、一番前に座っている生徒を巻き添えにするように、ずいっと顔を近づける。

 その生徒は突然のことに戸惑い、石像のように固まってしまった。


(こ、この人……めっちゃ変だ……!)


 そんなふうに、美久里と同じ感想を抱く人は一定数……というより、たくさんいるに違いない。

 シスターの授業というレア体験は、生徒に強烈な爪痕を残しながら幕を開けた。

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