第13話 すきんしっぷ(美久里)

 入学してから一ヶ月が経ち、そろそろ高校生活にも慣れてきた頃。

 この学校ではスキンシップが横行していた。

 もっと詳しく言うと、抱きつき魔が現れたのだ。


「もーえかっ♪」

「ひゃあっ!?」


 その抱きつき魔というのは、朔良だ。

 朔良は萌花に抱きつき、お腹をつまんでいる。

 萌花の少し肉付きのいいお腹は、さぞやつまみがいがあるだろう。

 そのせいか、朔良は事ある毎に萌花のお腹をつまんでからかうのだ。


「相変わらずむちむちしてんな〜」

「うぅ……ダイエットしますもん……!」


 ぽっちゃり体型を気にしているのか、萌花は涙目で反抗した。

 その反応が面白かったようで、朔良はニヤニヤ気味悪い笑みを浮かべている。


(仲良さそうだな〜……)


 その様子を、美久里は微笑ましそうに自分の席から眺めていた。

 『仲良きことは美しきかな』という格言があるように、朔良と萌花の関係が、美久里には美しいものに見えているのだ。

 それは、母が子を見る目に似ている。


「みーくりっ♪」

「ぴゃへあっ!?」


 いつの間にか萌花から離れていた朔良は、美久里を襲った。

 さっきまで萌花に引っ付いていたのに……まさか超能力者!?


 同じ教室内の出来事とはいえ、萌花のいる場所と美久里のいる場所はそこそこ離れている。

 それなのに後ろをとられているなんて、瞬間移動でもしなきゃ無理だろう。


「んー、美久里は痩せてんなぁ。ちゃんと食べてるか?」

「た、食べてるよ……でもあまり太んないんだよね……」


 抱きつかれることに慣れていない美久里は、身体を動かせずに口だけを動かした。

 そんな美久里の言葉を聞いた瞬間、朔良は美久里から離れて言う。


「お、お前……自慢か……?」

「へっ!? あ、え、ち、違うよ!? 私も悩んでて……」

「うわー……お前がそんなキャラだったとはな〜。知らなかったわ〜」

「ちょ……! 聞いてよぉ……!」


 わざとらしく芝居がかった口調で、美久里の元を去っていく朔良。

 そんな朔良に弁明するため、美久里は必死で追いかける。

 ――まさに、『仲良きことは美しきかな』である。

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