第11話 ねつ(萌花)

 高校に入ってからは、学校に行くのが楽しくなった。

 昔は人間の嫌な感情ばかり見てきたから、本当に地獄だった。

 だけど、今は……はじめて“友だち”というものができた気がする。


 ずっと誰にも深入りしなかったのに。

 誰かと親しくなりたいとも思わなかったのに。


(本当になんでかはわかんないけど……こういうの楽しいな)


 萌花は自然と顔をほころばせる。

 身体も心も軽く感じ、無意識にスキップしだす。

 そんなふうに廊下を歩いていると、ちょうど考えていた人の後ろ姿を捉えた。


「美久里ちゃん……!」

「へ……? あ、えっと……萌花ちゃん?」


 萌花の声に、驚いた様子で振り返る美久里。

 そんな美久里の顔を見た瞬間、萌花の心臓がドクンと大きく脈打った。


 いつもより赤みを帯びたしゅっとした頬と、トロンとした寝不足そうな眼が、いつもより美久里を艶っぽく見せている。

 朔良がこんな顔を見たら即落ちだっただろう。


「……美久里ちゃん? 大丈夫ですか?」


 萌花は見惚れる一歩手前で、なんとか持ちこたえた。

 それは、美久里の顔色が悪いことに気がついたから。

 多分、美久里は熱があるのだろうと思われる。


「保健室行った方がいいんじゃないですか……?」

「……え? あー……大丈夫だよ」

「で、でも……」


 美久里は明らかに体調が悪そうだ。

 フラフラで、萌花の眼には今にも倒れそうに見える。


「あ……」


 と、美久里が唐突に声を上げた。

 そして今にも倒れそうな身体を動かして、萌花に近づく。


「へ……っ? え、ちょ……ちょっと……」


 美久里は萌花を壁に追いやり、壁をドンッと押す。

 ――これは、いわゆる……壁ドンだ。


 萌花は突然の出来事に、声も出なかった。

 そして、どんどん美久里の顔が近づいてくる。

 それにつれて、萌花の心拍数が上がってしまう。


(こ、これは……もしかして……)


 萌花が何かを期待して目を瞑るも、いつまで経ってもなんの感触もない。


 恐る恐る目を開けると、美久里は萌花の隣にあるウォータークーラーで水を飲んでいた。

 美久里は喉が渇いていたようで、飲み終わったら少し顔色が良くなっている。


 萌花は急に恥ずかしさが込み上げてきて、顔をリンゴのように紅くさせた。

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