第2話 ねぐせ(朔良)

 スクールバスに乗って小一時間。

 神の坂(本当にそんな名前がついている)という名の心臓破りの坂を登り、朔良はスタミナが切れてしまった。


「き、きっつ……」


 そこそこ長く、斜面が急なため、体力のある朔良でも結構きついものがある。

 それに加え……


「階段多すぎだろ……」


 下駄箱で靴を履き替え、朔良は教室に向かっていた。

 だが、一年の教室は学校の最上階。

 これでは、体力のない人は肉体的にも精神的にも負荷がかかるだろう。


「つ、着いた……」


 へとへとになりながらも、なんとか教室へたどり着くことが出来た。

 ドアを開け、朔良は自分の席に向かう。

 その途中で美久里の席を通過するため、軽く挨拶し――ようとしたが。


「おっはよ〜! ――って、誰だよお前!? なんで美久里の席に座ってんだ!?」

「えっ……!? 私がその美久里だよ!?」

「……え? あー……なんだ。髪がめちゃくちゃになってるから別人に見えたわ……」

「うぅ……そんなに変?」

「変とかそういうレベルじゃないぞ!?」


 ……そう。美久里の髪はそういうレベルではない。

 見事に重力に逆らっていて、うねうねと気持ち悪い動きをしている。

 朔良はカバンからクシを取り出し、美久里の後ろ側へ回る。


「……ったくもう、高校生なんだから身だしなみぐらいきちんとしろよなー」

「あ、あはは……その……朝起きたら登校時間ギリギリで……」


 朔良が呆れた顔で、美久里の髪をクシで整えていく。

 だが、美久里の髪が元々くせっ毛なせいか、なかなか普通の状態に戻すのが難しい。

 というか、どうしたらこんなメデューサみたいな髪型になるのだろう。

 ストレートヘアの朔良からしたら想像がつかない。


(だけど、ちょっとだけ羨ましいかも……)


 ストレートヘアではなかなかくせが付きづらく、髪を巻いてオシャレをするということが難しいのだ。

 ……まあ、だからと言って美久里の髪ほどの強烈なくせはいらないが。


「ねぇ、朔良」

「……んー?」


 やっと髪が落ち着いてきたところで、美久里が話しかけてきた。


「朔良ってさ……面倒見良いからつい甘えたくなっちゃうな〜……って、あ! ごめんね? 迷惑だよね??」


 と、慌てふためいて謝罪する。

 申し訳なさそうな顔と言葉に、朔良はふと疑問を抱く。


(……なんでこいつ、こんなに遠慮するんだ?)


 そんなちょっとした違和感が朔良の脳を支配し、無意識にこう言わせた。


「……あたしで良ければいつでも甘えに来いよ」


 朔良がそう言うと、美久里は驚いた様子で遠慮がちに笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る