第4話 うたかたの夢。
――思いもよらない情が沸くって大変だ。あの日見た夢が、きっと僕の催眠の入り口だったんだろう。
日に日にYへの思いが大きくなるのが、手に取るように分かる。
何気ない会話も。
隣に座る姿も。
Yのすべてに意識がとらわれている。
Y「シンガポールに行きたくない?」
N「なんでですか!」
Y「この商談会は行政から補助金出るから一人分タダで行けるんだ! 日頃の功労者に行って仕事だけど楽しんできてもらえたらと思って!」
N「僕は功労者でもないですし、何より海外行ったことないです……」
Y「パスポートつくるところからだなー。ま、今月までに行くか教えてねー」
正直、二人でなら喜んで行きたい。
仕事とはいえ、こんなことを思っている僕は……不謹慎ですか?
現代はLGBTへの理解が広まってきている。
レインボーの旗を掲げた世界がメディアを渡り歩いている。
男が好きな女、女が好きな男……男が好きな男……
さまざまな愛のカタチがめぐりめぐる世界だ。
いっその事、この現代の情勢を当てにYに告白してやろうか。
(N:……あー自分、根性悪いな)
流行に乗る感覚すらない僕が、少しばかりの期待を胸に現代の色に頼ろうとする。
都合のいい思考だ。
答えが見えてしまっている恋愛には、光は差さず、少女漫画のようにお花畑が広がりすらしない。
生まれるのは「もしかしたら」と根拠のない期待と、すぐに追いかけてくる絶望だけだ。
ふと気付いた。
Yは誰にでもそうだ。
誰にでも公平に笑顔を向ける。たわい無い会話だってする。
席が隣だってだけで、僕は特別なんだと、特別な存在なんだと勘違いしていた。
この世界に溢れている言葉だけど。
何もない日常が幸せなのかもしれない。
そう思うようになったんだ――。
続く
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