君の声が side澄羅

 眠りにつくのが怖い時がある。

 それは、怖いと思うほうがおかしいのかもしれない。


 ──層状都市アーセルトレイ。

 ここには、沢山の層からなる都市と、他の層…異世界とされるところから来た隣人が存在する。澄羅もまた、この世界の人間からすると異世界の存在である。

 ここでは、ロアテラという存在の復活を阻止するために暗躍している、ステラナイトというものが存在する。今となっては過去の話だが、澄羅もだった。

 だった、というのは。一度、ロアテラの力に飲まれ、ステラナイトとしての力を出しうるものを壊されてしまったから、もうではいられなくなってしまったから。

 そして、ともに剣を握っていたパートナー……フェリシアも、居なくなってしまった。


 それからもう、ひと月が経つ頃。

 澄羅は眠ることが怖くなっていた。

 教員としての仕事もままならないほどに、日中眠くなってしまう。けれど、夜になっても眠ることが怖くてできなかった。

 怖い、その理由は、眠っているときに見るもの……『夢』のせいだった。


 初めは、声だけだった。懐かしくもいとおしい声。自分の名を呼ぶ、やさしい声。

 時が経つにつれ、呼ぶものは名前ではなく、『先生』に変わり。

 さらに時が経てば、ぼんやりと姿が見えるようになる。

 行かないでほしいと、手を握ることをすればよかった。その気持ちからくる『夢』なのかもしれない。

 ぼんやりとしか見えていなかったその姿は、フェリシアの形を成していく。

 

 夢。最近は、眠るたびに同じ夢を見る。

 フェリシアが呼びかけてきて、そばにいる夢。

 けれど、目を覚ませばそこにはいない。一人だけの空間が広がっているだけ。

 もう、限界だった。

 

 止めればよかった。いや止めなくてよかった。

 さみしい。こんな気持ちにしたあの子が許せない。でもあの子は悪くない。

 眠れば会える、けれど目覚めたときの喪失感たるや。

 

 そんな気持ちで一杯になって朝を迎える。

 澄羅は眠ることが怖くなっていった。

 夢の中でなら会えるといっても、目を覚ましたら消えてしまう。

 ずっとそばにいてほしい、けれど、生きている以上いつか夢は醒めてしまう。

 そんな、人の命の儚い一瞬よりももっと短いひと時で我慢なんて。


 いや、夢の中であれば、いくらでも会えるのなら、いっそ。


 澄羅は、月が空高く登る夜、窓に寄りかかって空を見ていた。

 「……フェリ。今、行くよ」

 そして、ゆっくりと目を瞑る。程なく、澄羅の腕がだらりと落ちる。その手には、小さな瓶。からん、と手から床に転がり、中から白い錠剤がいくつか床に散らばった。


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https://shindanmaker.com/717995

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