第3話 捕虜と鹵獲
空中で剣を抜き放った
すぐに翼とスラスターで跳び上がり、副官機と見込んだ機体を探す。カーミラが放った
そこに、敵の照準レーザーに引っかかった警報音が鳴る。当の副官機と見られる機体が、右手の機関砲を構えている。
ルシフェルの左腕に装備されている結界生成機を起動し、結界を張る。敵の機関砲が火を噴くが、結界に阻まれる。
ルシフェルは軌道をずらして、副官機の至近に着地すると、サーベルを横薙ぎに払う。
しかし、いつの間にかハーケンを二本、どこかに打ち込んでいた副官機が、スラスターの噴出と共に高速で後退する。
「お前たちも距離を取れ!」
蝙蝠が副官の通信内容を知らせてくる。しかし、副官機の後ろに控えていた2機は、今さらこちらに向けて機関砲を構えている。
比較的距離が近かった左手の敵を狙う。ワンステップで距離を詰め、コックピットをサーベルで突き刺す。沈黙した敵機を盾にしつつ、もう1機に近づく。味方の弾丸に少しずつ破損していく敵機をぶつける。
至近距離で跳弾でも当たったのか、機関砲が煙を出して燃え始める。その間に距離をなくし、ゼロ距離で突きを放つと、サーベルがコックピットを貫通する。
そこに、近くのビルを
敵のロックオンを示す警報音が鳴る。周囲をスクリーンすると、ビルより高い地点まで打ち上げられた小型ミサイルが、こちらに向けて落ちて来ている。
上に気を取られている間に、四方を包囲されていることに気づく。なるほど、この副官は昨日の指揮官か。一日でここまで対策を練るあたり、ただ者ではないのかもしれない。
副官の正面を避け、左手の敵に向かっていく。結界で機関砲の弾を避けつつ、瞬時に敵の裏側に回り込み、結界を展開する。
すると、追尾してきたミサイルが、敵機の間近で爆発する。どうやら、光学誘導をしているようだ。ロックオンした相手の姿を追う性質ということだ。俺がいさえすれば起爆するので、敵の同士討ちをさせる作戦がよく効いた。
同士討ちで1機倒したことで包囲の輪から出られた。ここからは、遮蔽物を利用して隠れながら、各個撃破を狙うことにする。カーミラが伝えてくる情報を基に、再び包囲の円に入らないよう注意しつつ、目に付いた敵を撃破する。
個の力で副官に勝る相手は見つからず、難なく6機の敵を撃破する。その間に、敵の戦車部隊の相手をしていたバアルが作戦終了を伝えに戻ってくる。
力尽くでハッチをこじ開け、中の兵士を
カーミラからは、撹乱工作により敵の同士討ちが始まったことを知らされる。隙をついて遠距離攻撃で敵を減らせるよう、サーベルに炎の属性を付与する。
ビルに隠れ、カーミラからのナビゲーションも得ながら1機ずつじっくり減らしていく。同士討ちと遠距離攻撃の結果として、副官機だけが残る。
これ以上時間をかけると無数の援軍に邪魔されかねないので、副官を眠らせるようカーミラに指示を出す。
暫くして、カーミラから導眠成功の連絡が入る。カーミラもバアルも、遠隔通信の魔法を使えるので、こちらの世界で傍受不可能な通信として非常に優れている。
ルシフェル・ノワールで副官機を抱え、大きな光の翼を開く。飛び上がってしまえば、
光の羽は目立つ。敵の追跡を困難にするために少し早く降りたのだ。
着地点には、アメリカ合衆国からの支援で届いたスチールアーミー2機のうちひとつが待っていた。SA-04Bという型式の、米軍の主力スチールアーミーだ。
ルシフェル・ノワールとSA-04Bで協力して、できるだけ気配を抑えてアジトまで運ぶ。
「まさか、本当にサンプルを持ってくるとは……」
SA-04Bに搭乗した久良岐からため息まじりの声が聞こえる。
「ここに乗ってる奴がいなければ、もっと簡単だった。いい捕虜になるな」
アジトに敵機を運び込んだころには、真っ黒だった空が少し白んでいた。
◆◇◆◇◆
劉海賢が目を覚ましたとき、薄暗い部屋には誰も居なかった。やや固いベッドで身体を起こすと、ようやく右足についた鎖の存在に気がつく。それはベッドの一番隅に置かれた鉄球に繋がっているようだった。
部屋には
天井で何かが動く気配を感じ、目をやる。黒い物体がのそりと動き、ドキリとする。
――そうだ。蝙蝠女!
海賢は、自分をこの状況に導いた黒マントの女を思い出す。あいつが何か口ずさむことで、意識を引っ張られるように気を失ったのだ。
それを思い出してみれば、この蝙蝠があの女の支配下にあることがわかる。しっかり監視されているのだ。
部屋に響く金属音が、二つ鳴る。鉄扉が叩かれた音だろう。
「入るぞ」
そう言って入って来た男を見て、海賢は驚く。
「あんた、まさか、中西翔吾……」
「俺を知っているのか」
中西が
「お前は、砂羽の友達か……、確か、海賢……劉海賢なのか……」
やはり、中西翔吾なのは間違いがない。異世界は時の流れが違うのだろうと、そう思うより他ない。
「ああ。劉海賢だ。今の所属は汎ユーラシア連邦陸軍特別治安維持局第4機甲歩兵中隊付だ」
「自分から話してくれるのは助かる」
「お前が、異世界から戻ってきた軍事顧問なのか」
「ああ」
「妹がいる身でテロリストか」
「君らの立場からすればそうなるか。たまたま日本に住んでいただけの君と、日本人としてここで生活していた俺では、捉え方も違って当然だ」
「砂羽はお前を心配していた。お前は砂羽の声を聞いたはずだ」
「ああ。君らの陣営に取り込まれてしまった妹の声を確認した。必ず助ける」
「助ける? テロリストの組織に無理矢理引き込むことを助けるというのか」
「だから、テロリストというのは君たちが一方的に付けたレッテルだ。この戦争の本質が中国社会党と日本との戦いであることを理解できないのか」
「その日本はとっくに降伏して汎ユーラシアの一員になった。お前たちは日本にすら牙を
「
「それで機密をばらすとでも思ったのか。馬鹿馬鹿しい」
軍事機密の
「いずれにせよ、俺たちはあの機体をいじり倒して操作方法を身に着ける。それが早かろうと遅かろうと、君がいる間に俺たちが操作方法を身に着けるのは同じことだ」
「味方はどうせ俺を裏切り者にすると言いたいのか」
「言いたい、ではなく、理論的な予想だ。お前の祖国の理屈なら、きっとそうなる。それを防ぐ方法はなんだと思う」
「……俺に機密を渡してくれるのか」
「少なくとも、モノを教えてくれるインストラクターに足枷はつけないな」
海賢は条件について考える。確かに、手ぶらで帰れば、どちらにせよリスクがある。それならば……。
「テロリストらしい卑怯な交渉だが、乗ってやる」
「今日からしばしの友人だ。海賢」
そう言いながら差し出された右手を、海賢はしっかり握った。
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