第一章【0番街の怪人】

深夜の散歩

 春とはいえ、深夜はとても冷える。

 ひと月前までコートを手放せなかったのだから当然だ。今日はいつもより気温が低く、風が強いからより寒く感じる。なにか温かい飲み物を飲みたい。それよりも早く家に帰りたい。高校生が外出していたら警察に呼び止められる時間帯だから。しかもこんなところを男女で歩いていたら……。

「そこのカップルさーん。寄っていきませんかー? 一杯サービスしますよー」

「おにいさん、どうですか。いい子いますよ。写真だけでも見てってください」

 居酒屋や風俗店の店員がひっきりなしに声をかけてくる。前者はともかく、後者はなんだ。僕の隣を歩いている女の子の姿が見えていないのか。そもそも僕たちが高校生であることに気がついていないのか。それとも知っているうえで冷やかし気分で声をかけているのか。

「ガキがこんなところに来るな!」

「早く帰れ!」

 一方で怒鳴って追い払われることもある。どちらかといえばこういった人たちの方が多い。それは当然だ。もしもここで僕たちが警察に見つかって補導されたら、法令で禁止されている客引き行為をしている彼らもいっしょに注意を受けることになるだろう。

 さすがに暴力をふるわれることはないが、そろそろ怒鳴り声を聞こえないふりするのも辛くなってきた。ここ数日は警察の巡回がなかったけれど、今日もないとは限らない。

 辺りを見回すと店の従業員たちがこちらを注視している。僕ら以外に通りを歩いている人は見かけない。客引きの声だけが虚しく響いている。すでにどこかの店を利用しているのか、それとも客が全くいないのはいつも通りなのか。ここしばらく訪れた僕にはどちらが真実かハッキリとわかっている。ここも昔は活気あふれる街だったらしい。しかし、今となってはその面影すら残っていない。

 風は弱まることを知らず、それに比例するように体感温度も下がっている気がした。あまりの寒さに体が震える。

 隣を歩く西島は客引きの声や鋭い視線、冷たい風や寒さも意に介さず歩き続ける。時折、右に左に視線を向けて必死になにかを探している。僕も同じように右に左に目を向けるが、それらしいものは見つからない。

 これもここ数日訪れた時と全く同じである。今日もまたなにも見つけられずに帰ることになるだろう。

 腕時計の針は11時30分をさしている。これまでは0時を迎えるとすぐにここを離れた。けれど今日はいつもより寒いし、警察の巡回があるかもしれない。

「西島さん。そろそろ帰ろう」

「もう少しだけ……」

「今日は寒いし、このままだと風邪をひいてしまうよ?」

「すみません。もう少しだけ……もう少しだけお願いします……」

 昨日までは名残惜なごりおしそうにしながらも最後は了承していっしょに帰ってくれたのに。だが今日はなかなか首を縦に振ってくれない。

「今日は見つかる気がするのです」

 西島の目はいつになく真剣だった。さすがに僕一人で帰るわけにはいかない。

 仕方ない。もう少しだけ付き合おう。大きなため息をついてまた歩き始める。

「ありがとうございます。騙り部さん」

 遅れてついてきた彼女が小声でそう言った。だが、それを聞いて思わず顔をしかめた。

「何度も言うけど、その名前で呼ばないでくれよ」

 そもそも騙り部と呼ぶなら父親の方が合っているだろう。

 しかし何度お願いしても、彼女は外でも家でも呼び名を変えようとしない。

「私にとって騙り部は、あなただけですから」

 また小声で返答する。どうやらそれは西島にとって譲れないことらしい。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「おかえりなさい。騙り部さん」

 玄関先でエプロン姿の西島が出迎えてくれた。

 素直に「かわいい」と思ったが、口には出さないでおいた。きっと彼女にそれを着るように入れ知恵したのがエロ親父だろうと簡単に推察できたからだ。それにしても、西島が同じ家に住み始めてからしばらく経つというのに未だに実感がわかない。彼女の横を通りすぎて部屋に行こうとしたら呼び止められた。

「騙り部さん。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……」

「ご飯でお願いします。それからその呼び名はやめてくれ」

 ご飯を食べた後、エロ親父をこらしめよう。それから風呂に入って汗や血を洗い流してから自室に戻って執筆を進めよう。ここ最近は調子が良いからペースを崩さずに進められている。このままいけば応募〆切の半月前には完成できるだろう。そう思うと顔が少しにやける。

「あの、すみません。ご飯を食べた後、話を聞いてもらってもいいですか?」

「ごめん……ちょっとやることがあるんだ……」

 正直な気持ちを声と顔に出してしまった。

「この前の夜、話を聞くと言ってくれましたよね? あれは嘘だったのですか?」

 西島は表情一つ変えずに尋ねてくる。だが心なしか悲しい表情にも見えた。

「ごめん。嘘じゃないよ。あれからなにも言ってこないから、もういいのかなと思ってた」

「それは……私もすみませんでした。いろいろと調べていたら遅くなってしまいました」

「いや、西島さんは悪くないよ。約束を破ろうとした僕が悪いんだから。本当にごめんね」

 深く頭を下げて謝り、顔をあげて様子を見る。少し悲しそうに見えていた表情はなくなり、いつも学園で見せるような顔に変わっていた。なにを考えているのかわかりにくい。しかし、いつもより神妙な面持ちをしているように感じる。調べていたと言っていたけれど、何か悩みでもあるのだろうか。学園生活のこと、この家での暮らしのこと、あるいは……自分の体のこと。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



0番街ぜろばんがいへ行きましょう」

 夕飯を食べ終えてから自室へやってきた西島が開口一番にそう告げる。あまりに突拍子もないことを言い出すのですぐに聞き返す。

「今、なんて言った?」

0番街ぜろばんがいへ行きましょう、と言いました」

「いや、そういう意味で聞いたんじゃないんだけど……」

 西島はキョトンと呆けた顔を傾ける。

 僕は頭をかきながらどうしようかと考え込む。

「あ、説明不足ですみません。0番街というのは……」

「それは知ってるよ。秋葉駅あきはえきの西口を出てすぐにある……歓楽街のことでしょ?」

 ごまかさないで正直に答えた。あそこはいかがわしい店も多いのは確かだが、決してそういう意味で話したわけではない。それは彼女もわかっているだろう。

「さすが騙り部さんです。頼りになります」

 なにがさすがなのかわからないし、行くことを了承していないのに勝手に頼りにされても困る。

「そこがどんな場所か知ってるの? 女の子が一人で行くようなところじゃないよ?」

「はい。いろいろ調べました。だから男の騙り部さんに付き添いをお願いしたいのです」

 調べてたってそういうことかよ。なんだか深刻に考えていた自分がバカみたいだ。

 呆れる僕をよそに西島は真面目に話を続ける。

「でも、一つだけわからないことがあります。なぜあそこは0番街と呼ばれているのでしょう」

「西島さんは、秋葉市あきはしが鉄道の町として発展してきた歴史があることを知っている?」

 この町で生まれ育った人なら鉄道に興味があってもなくても小学校や中学校の社会科の授業で習うことだ。案の定、彼女は僕の問いかけに首を縦にふる。

「秋葉駅には何本も線路が走っているだろ? その中に『0番線ぜろばんせん』という路線があるんだよ。そのすぐ近くにある街で、そこで働く人たちが遊びに行くから。それが街の名前の由来だよ」

 まだ活気があった昔ならともかく、廃れてしまった今ではその由来を知っている人は少ないだろう。ほとんどの人が『歓楽街』と呼んでいる。今も営業している店があるとはいえ、シャッターが閉まったままの店も多いと聞く。

「でも、秋葉駅には1番から5番までの路線しかありませんよ? 0番線なんてどこにも存在しないのではありませんか? それとも普通の人には見えない秘密の入口があるのでしょうか」

「あはは。秘密の入口といえばそうかもしれない。0番線は、列車の整備をする車両基地へつながっている路線だから、鉄道関係者しか入ることが許されていないからね」

「そう、ですか……。異世界や宇宙の彼方かなたへ通じている幻の路線かと思ってしまいました」

 先ほどまでの目の輝きが一瞬にして曇ってしまった。

「西島さんはどうしてそんなところに行きたいの?」

 部屋に入ってきてすぐに目的地は告げられた。だが肝心の目的そのものは知らされていない。

 そこで働きたいというなら絶対に止める。秋功学園しゅうこうがくえんは生徒のアルバイトを禁止していないが、さすがにあんなところで仕事をしていると知られたら問題になるだろう。良くて停学ていがく、悪ければ退学処分だ。そんなことは絶対に避けなければならない。

 この問いにはすぐに答えが返ってこない。彼女は顔をうつむかせたまま黙っている。

 質問を変えてもう一度聞こうかと迷っている時、ようやく顔をあげて答えてくれた。

「どうしても言わないと……ダメですか?」

 西島の両目には大粒の涙がたまっていて今にもこぼれ落ちそうだった。泣かれるのは困る。もしも母に彼女を泣かしたことを知られたら……想像しただけでゾッとする。

「わかった。言いたくなかったら言わなくていいよ」

「じゃあ、私といっしょに0番街へ行ってくれますか?」

 これで話は終わりと思ったところだったので不意を突かれた。

「それは……」

「ダメですか?」

 涙をためた女の子に上目遣いで頼まれたら断れるわけがない。

 ましてや彼女の頼みなら……。

「わかった。行くよ」

「本当ですか? 本当にいいのですか? 嘘じゃないですよね? 信じていいのですよね?」

「僕は嘘が嫌いなんだよ。それなのに嘘をつくわけがないだろ?」

「そうでした。騙り部なのに嘘が嫌いなんて……変わった方ですね、あなたは」

 先ほどまで泣きそうだったとは思えないほど明るい口ぶりだった。これは、彼女に騙されたかな。そういえば父親がよく言っていた。女の涙はこの世の嘘で最も見破りづらいものだ、と。普段なら嘘をつかれると気分が悪くなるけれど、今は不思議と嫌な気分にはならなかった。

「でも意外です」

「なにが? 言っておくけど、歓楽街へ行くことに納得しているわけじゃないよ。でも、僕が了承しなくても西島さん一人で行くつもりでしょ? それだけは絶対にさせないから」

 僕が念押しするように告げると、西島は大きく首を横にふる。

「騙り部さんなら私の嘘泣きにすぐ気がつくと思っていました。騙り部は、普通の人よりも五感が鋭いから簡単に嘘を見抜くことができると、お義父さんが言っていましたから」

「西島さん。親父に騙されているよ」

「え、嘘なのですか?」

「僕も両親も、亡くなってしまった祖父母も、それから親戚のみんな全員、ただの一般人だよ。それから騙り部の言うことを簡単に信用したらダメだよ。なぜなら騙り部は……」

「騙り部は嘘しか言わないから騙り部……ですよね?」

 僕が言おうとしていたことを先に言われた。

 なんだ、覚えているじゃないか。それなのに、父親の言葉を真に受けていたのだろうか。他人の言葉を信じやすい子は騙されやすい。

 やはり心配だ。なにが目的か知らないけれど、僕もついていくしかない。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 酔っ払いに絡まれそうになったところを西島の手を引いて全速力で逃げた。そのまま街の外へ出ようかと思ったが、出入口付近に赤いランプの付いた車が見えた瞬間すぐに方向転換する。

 警察の巡回だ。慌てて裏路地に姿を隠すと制服姿の警察官が街の中へ入っていくのが見えた。昨日までは一度も見なかったのに今日に限って運が悪い。

 しかも先ほどまで閑散かんさんとしていたはずの街にどんどん人が増えている。最初は気のせいかと思ったが、人の数が両手の指以上に増えたあたりで気のせいではないと確信した。西島の手を引いて人の間をぬうように進んだのでどこかぶつけていないか今さら心配になって尋ねる。

「西島さん大丈夫? どこかぶつけてない?」

「大丈夫です。ぶつけても私ならすぐに治りますから。気にしないでください」

「それでも痛みは感じるんだろ?」

「はい。だけど、それもすぐに……」

「もっと自分の体を大事にしてくれよ。西島さんはかわいい女の子なんだから」

 気づいた時にはもう遅かった。一度言葉にしてしまったものを否定したらそれは嘘になる。嘘が嫌いな僕にはできない。

 それは正直な気持ちだから否定するつもりはない。けれど、とてつもなく恥ずかしい。顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのがわかる。ここが暗い場所でよかった。僕の顔は見られたくないし、彼女の顔はもっと見られない。

「はい……すみません……。気をつけます……」

 遅れて西島から返答があった。無視されても気持ち悪がられてもおかしくないと思っていたから少しホッとした。

 ふと気づけば走り出した時からずっと手をつないだままだった。お互い走ることに集中していたせいで離す機会を見逃してしまっていた。彼女は怪物の冷たい手と言っていたけれど、その手からはしっかりと温もりが伝わってくる。

 しばらく裏路地に身をひそめながら通りの様子をうかがう。警察官の姿は見えないが、出入口の方を見るとまだ赤いランプが回っているのが見えた。警察の巡回は続いているらしい。幸い冷たい風は弱まってきているし、今も手をつないだままなので寒さはあまり感じない。

 腕時計を街灯の光に照らして見ると針が0時を指そうとしているところだった。そのことを西島に告げるが、返事はない。

 心配になって彼女の方を見ると眠そうな顔をうつらうつらと前後させていた。それでも手だけはしっかりとつながっている。眠気覚ましに話でもしようと、僕は以前から気になっていたことを聞いてみる。

「どうして深夜の0番街でないとダメなの?」

 いっしょに0番街へ行くことを了承した時、僕は日が出ている間に行くつもりでいた。すたれてしまったといっても歓楽街には変わりない。高校生の僕らが夜の街に訪れてはいけないというのは一般常識だ。

 また、私立秋功学園しりつしゅうこうがくえん秋葉市内あきはしないの学校の中でも特に校則が厳しいから昼間に行っただけでも厳重注意されてもおかしくない。しかし西島は警察や近隣住民に見つかる危険性があるにもかかわらず、こうして毎晩のように0番街を訪れている。

 西島ふじみは真面目な生徒だ。それが僕の目から見た彼女の認識だ。学園指定制服のセーラー服を着崩したりスカーフが曲がっていたりすることはない。秋功学園では紅葉もみじを模した校章バッジを付ける義務があり、それもしっかりと守っている。廊下は走らないし、タバコも吸わないし、無断欠席もしない。どんな小さな規則でも守る。自ら校則違反をする人間ではない。

 それなのに、どうして深夜に外出しようと提案してきたのか。やはり0番街には規則を破ってでも見つけたいなにかがあるのか。そしてそれは……深夜でないと見つけられないのか。

 以前聞いた時は口をつぐんだ。あれから一度も0番街を訪れる理由を尋ねていない。自分なりに彼女がここに来る理由を考えたり調べてみたが、これという理由は見つけられなかった。

「答えたくないなら答えなくていいよ。今日がダメでも明日も付き合うから」

 口を固く閉ざす彼女にそう伝えてから通りに目を向ける。やはり今日は人が多い。異様に、という形容詞がしっくりくるほどに人であふれ返っている。なんだか街に嘘をつかれているようで気分が悪い。こんな感覚は僕も生まれて初めてだ。

「……を見つけたいのです」

 西島が何か言葉を発した。

 運悪く風の音に消されてしまったのでもう一度お願いする。

0番街ぜろばんがい怪人かいじんを見つけたいのです」

「0番街の怪人……?」

 なんだそれ。アニメや漫画に出てくる悪役か?

 僕の頭上に浮かぶ疑問符に気づいたのか、西島がそれについて詳しく説明を始める。

「0番街の怪人は0時0分0秒ちょうどに0番街に現れる正体不明の存在です。怪人と言われていますが、人間の姿をしているのかどうかさえわかりません。なぜなら、誰一人としてその姿を見たことがないのですから」

 それなら、どうして0番街の怪人という存在が知られているのか。

 そういう噂話にツッコミを入れるのは野暮やぼなので黙っておこう。それに、騙り部の歴史などツッコミどころしかないからちまたの噂話を突っ込める立場にない。

「0番街の怪人……ね。ちなみにその話は、どこの誰から聞いたの?」

「私が愛読している雑誌の記事です。ちなみに筆者は小須戸文哉こすどふみやさんです」

 ファッション誌でないことは確かだ。おそらくオカルト雑誌かなにかだろう。それにしても、地方都市である秋葉市の駅前の歓楽街限定で現れる怪人がいるとは知らなかった。

「昔はここで行方不明になった人がたくさんいるらしいです。0番街の怪人にどこか知らないところに連れて行かれたという噂もありますよ。あるいは、殺されたとも言われています」

「店で遊んだ分の代金を払えなくなった客が怖い従業員に連れ去られたんじゃないの?」

「そんなことありません。きっと0番街の怪人の仕業です。絶対に見つけますからね」

 考えを否定されたのが気に入らなかったのか、珍しく西島はむきになって反論する。

 少し悪いことをしてしまったと反省してすぐに謝る。それから新たに質問をする。

「その怪人を探す手がかりはあるの?」

 現れる時刻は0時ちょうどで、場所は0番街に限定されているということはわかった。今まで深夜0時を過ぎたら帰っていたのはそういうことか。しかし、怪人は0番街のどこに現れるのかわからない。狭い街とはいえ、0時ちょうどに目の前に居合わせるというのは難しい。

「いろいろ調べたところ、怪人が現れる直前に扉が出てくるらしいです。その扉は、『0の扉』と呼ばれています。その扉を開けて進んだ先に怪人がいるとか、扉が勝手に開いて怪人が顔を出して笑っていたとか、そういう話が伝わっています」

「0の扉か。数字の0の形をした扉なのかな。もしそうだとしたら凝ったデザインだね」

 ネーミングセンスはないけれど、デザインセンスの高さは感じられる怪人だ。

 しかし、どれもこれもいかにもオカルト雑誌に掲載されているような話だと思った。胡散くさい話だが、ここまでくると本当にいるのではないかと思えてくる。それになぜか、西島の話しぶりから嘘の匂いが全くしないのだ。

 それよりも街の空気に含まれる嘘がどんどん濃くなっていくように感じる。こんなことは今までなかった。父親ならなにか知っているだろうか。

「0番街の怪人は、0時0分0秒ちょうどに0番街のどこかに0の扉が現れるんだよね?」

「はい。そうですよ」

「それなら0時0分1秒になったら扉は消えてしまうのかな?」

「えっと……」

「その1秒の間に、怪人が僕らを襲ってくる危険性は?」

「大丈夫です。危なくなったら私が盾になって騙り部さんを守りますから」

「それはダメだよ」

「え? でも……」

「さっき言ったことをもう忘れたの? もっと自分のことを大切にして、と言ったよね」

 言い終えた途端、西島の手に熱がこもったのを感じた。そのおかげで僕も気がついた。自分がどれだけ恥ずかしいことを口走ってしまったか。

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