五本目『エリスのアイチューバーデビュー』
アイチューバー、それは動画配信でしのぎを削る戦士たちのことである。
「俺の夢はアイチューブの頂点に立つこと。エリスにはその協力をして貰いたい」
ヒイロは職業の託宣で動画配信者の職を与えられたことや、異世界地球のアイチューブというサイトに動画を配信できる能力があることなどを説明する。
「俺は今まで多くの動画を配信してきた。しかしチャンネル登録者数千人の壁をなかなか超えられないのだ」
チャンネル登録者千人。それはアイチューバーにとって最初の壁であり、動画収益化のためにアイチューブから課せられた条件でもあった。
「俺は再生数を稼ぐための方法を知るため、人気者の動画を手当たり次第に漁り、アイチューバー界の頂点に位置する者たちを研究し尽くした……そして俺は人気者たちのとある共通点に辿り着く――ずばり、可愛い女で釣ればいいのだと」
「まだ理解が追い付いてないけど、あなたの発想がゲスだということだけは十分に伝わったわ」
エリスはアイチューブが映像を第三者に配信する場所だと朧気ながらに把握する。そして自分に課せられた役割が、客寄せパンダだということも理解する。
「さっそく動画をアップするぞ。本日の企画は便利アイテムのレビューだ」
ヒイロは瓶に詰まった水色の液体を取り出す。その正体にエリスは心当たりがあった。
「それはポーションね」
「知っているなら話が早い。呑むとたちまち傷が治るハイポーションをレビューする」
「でも傷を負っている人なんて……あっ……」
エリスはそこで自分の立場が奴隷だと思い出す。
「私をボロボロになるまで痛めつけてから、ポーションで傷を癒すのね。このゲスめ。恥を知りなさい」
「…………」
「何か言いたいことがあるならはっきり言いなさいよっ、この卑怯者!」
「まぁ、なんだ……俺が想像さえしていなかった惨い内容を提案してきたから言葉を失っていただけだ……エリスは痛めつけられるのが好きな変態だったんだな……」
「はうっ……」
ヒイロの冷静な反応にエリスは顔を耳まで真っ赤に染める。
「ち、違うの……別に私が痛めつけられたいとか……そういう意図はないの……」
「ごめんな。俺にそういう趣味はないんだ」
「私の話を――」
「アブノーマルな趣味をワザワザ口にしなくてもいい! 俺は変態と交わりたいと思わないが、理解はある方だから!」
「だ、だから私は――」
「熱意は十分に伝わった。でもすまんが諦めてくれ。俺のチャンネルは全年齢向けで、変態向けのチャンネルではないんだ。もし性を発散させたいなら、俺は部屋の外にいるから一人で楽しんでくれ」
「うっ~~っ~~」
エリスの弁明を聞こうとしないヒイロに、彼女は不満げに頬を膨らませる。そんな彼女を置いてきぼりにしながら、ヒイロはアイチューブへの動画配信準備を進める。
「撮影準備は整ったし、さっそく始めるぞ」
「誤解は後で必ず解くからね」
ヒイロが動画撮影を開始すると、空中に浮かんだ映像にヒイロとエリスの整った顔が二つ並ぶ。ヒイロは慣れているため緊張していないが、エリスの方は不慣れなためか表情が固い。
『異世界からこんにちは。俺はヒイロ。15才の貴族だ、よろしくな。今日は俺の大事な仲間を紹介するぞ。こいつが新しく仲間に加わったフェアリーの……』
『なによ』
『……変態と呼ばれた方がきっと嬉しいんだよな?』
『あなた、私のこと大事な仲間だと思ってないでしょ……私はエリス。秘境の森にすむフェアリー族よ』
『自己紹介も済んだところで本日の企画だが、怪我をしてないのにポーションを呑んだらどうなるかを検証していこうと思う』
ヒイロはポーションが詰まった瓶の蓋を開けると、水色の液体を喉に流し込む。
『うぉ~ポーションの力で体が――』
『馬鹿ね。傷もないのに何も起きるはずないでしょ』
『……こいつ、ネタバレしやがった』
『え? 駄目なの?』
『謝れ、動画の前で検証結果を楽しみにしていた視聴者に謝れ』
『あ、うん。何だか良く分からないけど、ごめんなさい』
『謝罪を受け入れてくれた人はグッドボタンを――』
『あ、え? グッド?』
『面白いと思った人はチャンネル登録をお願いします』
動画の撮影を終えると、ヒイロがふぅと息を漏らす。動画撮影終了と共に、彼は緊張感から解放された。
「これで動画撮影は終わりだ」
「あんた、これをやるためだけに私を買ったの?」
「そうだが……他にどんな用途で奴隷なんか買うんだ」
「……長年守ってきた純潔の危機に流した涙を返して欲しいわ」
「おいおい、見てみろよ、さっそくコメントがきているぞ」
『エリスちゃんポンコツ可愛い』
『レベルの高いコスプレだね? その羽どこで売っているの?』
『エリスちゃん萌え~、それがしの嫁に認定するであります』
『お姉さん、浮気する男子は嫌いよ』
動画に寄せられたコメントはエリスに関するモノばかりで、企画内容には触れられていない。しかしそれこそがヒイロの狙いでもあった。
「チャンネル登録の増加が止まらねぇ」
チャンネル登録者数を示すカウンターが毎秒ごとに数を増していく。エリスという新しい仲間の加入が、新しい視聴者を呼び込んだのだ。
「やはり俺の分析は正しかったのだ……」
「分析ってさっきの可愛い女で釣るって話?」
「その通りだ。エリスは性格こそ可愛いと言えないが、外見だけならパーフェクトだ」
「え? どうしたの? 急に褒められると気持ち悪いんですけど!?」
「素直に褒めているんだ。エリス、お前の外見は素晴らしい」
「あ、ありがとう……」
エリスは僅かに俯き、褒められたことが気恥しいのか、頬をほんのり赤く染める。
「やはり動画はサムネが勝負。サムネに釣られて、男どもが寄ってきたのだ……良かったな、サムネに性格の悪さが表示されなくて」
「動画投稿者の性格の悪さも表示されなくて助かったわね」
世の中の男どもは可愛い女が出ていれば、それだけで十分楽しめる。それが分かっただけでもヒイロにとっては大きな収穫だった。
「つまり男どもが私の美貌の虜になったのね……」
「そういうことになるな」
「ふふふ、いいわ。私も森の妖精フェアリーの端くれ。可愛いと愛でられるのは悪い気がしないし、あなたの夢に協力してあげる」
「二人でアイチューバー界のてっぺん目指すか?」
「やってやりましょう!」
エリスは想定していた悲惨な奴隷生活を免れたことに安堵し、ヒイロの夢を手伝うことを決意する。二人のアイチューバー界における快進撃はここから始まるのだった。
異世界アイチューバー ~チャンネル登録されると強くなる最強チート配信者~ 上下左右 @zyougesayuu
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