第47話

 監視カメラの存在をもう気にしなかった。いくら探しても見つからないものは見つからない。それよりもさっさと作業をすませたほうが得策だと考えた。

 身を屈めてフェンスの隅に急いだ。リュックを降ろしたデーモンは、手早くドローンを組み立てはじめる。金太は、口にペンライトを咥えてアイコのリュックのファスナーを開けると、そっと手を差し入れてジョージの躰を支えた。その不思議な手応えに金太はリュックのなかを覗き込む。愕いたことに、ジョージはビニールのプチプチで包まれていた。

 あとからアイコに聞いたところ、ジョージの体重でドローンが危なかったから、少しでも軽いほうがいいと思って、家にあったプチプチで防寒着を拵えたとのことだった。

 いままでジョージが着ていた服は、ジョージ用のリュックに非常食と一緒に入れてあった。

 デーモンは準備ができたことを合図する。それを受けて金太はジョージをドローンにセットする。いよいよフライトだ。怪しまれてないか周囲に目を配る。どうやら人影も車の姿見えない。いまがチャンスだった。

 振り向いたジョージが手のひらでデーモンを呼ぶと、右の頬に別れのキスをした。ふたりは、言葉を交わさなくてもいいたいことは充分にわかっている。次に金太に顔を向けると、同じように金太にもキスをした。男同士の友情が目頭を熱くした。

 いよいよ別れの時間(とき)が来た。金太が両手でドローンを支え、デーモンが震える指でレバーに触れると、突然機体が軽くなり、思ったより早く目的の高度まで上昇した。薄暗い冬の夜空に浮かんだドローンの機体を金太は追い求め、デーモンはコントローラーに取り付けたスマホの見えにくい画像を懸命に見入っている。

 ジョージを乗せたドローンはなんとか貨物船の甲板に辿り着いた。微妙な高さをキープするようにコントロールされたとき、ジョージは素早くワンタッチバックルを外し、甲板の隅に身を隠した。

 それを画面で確認したデーモンは急いでドローンを引き返し、今度はアイコの拵えてくれた衣類や非常食の入ったリュックをジョージに届けなければならない。いつでも取り付けられるように金太はリュックを手にしている。

 ドローンが戻り、身を屈めて金太がリュックを装着しようとしたときだった。突然当たりが昼間のように明るくなった。

「うわーあ」思わず金太が声を出しながら、手のひらで目を覆った。それくらい眩しい光だった。

 その瞬間、様々のことが一瞬にして脳裏を過ぎった――これですべてが終わった。そう思った金太は覚悟を決め、顔から手のひらを下ろした。

 ところが、その光は徐々に遠ざかり、ふたたび以前の薄暗い闇が戻っていた。どうやら道路を走って来た車のものだったらしく、こちらに来ずに右折して行ったようだ。

 胸を撫で下ろしたふたりは、急いで2回目のフライトに取りかかる。今度は荷物なのでそれほど神経を使うことはなく、要領も掴んでいたためそれほど時間はかからなかった。

 画面にジョージの姿が映し出されている。ジョージは届けられたリュックを背負い、カメラに向かって大きく手を振っている。ジョージとの最後の別れだった。

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