第44話

「ぼくなりに考えたんだ。船の旅となると日にちがかかるから、非常食用に小さいラーメンとどうしたって咽喉が渇くから、これに水を入れたらペットボトル代わりになるじゃない」

 ネズミはしたり顔になって金太に説明をする。

「なるほど、水筒代わりの入れ物か。ネズミおまえにしてはよく考えたな。よしこれは採用することにしよう。もしこのほかにも役立つようなものがないか調べといて」

「わかった」

 返事をしたネズミは残った半分のクッキーを口に放り込んだ。

「あとは、このドローンで無事にジョージを運ぶことができるかどうかだよな」

 金太はデーモンの顔を見る。

「ジョージの体重はおよそ500ミリのペットボトルくらいだから大丈夫なはずだけど、こればかりは実際に飛ばしてみないことにはわからない。これから庭に行ってペットボトルで実験してみよう」

 デーモンがコントローラーを持ち、ノッポが両手で慎重に本体を持って玄関から庭に回った。

 夏休みにみんなでお爺ちゃんのところに遊びに来てもう2ヶ月。

 庭の木々もあの頃から較べると心なしか色を落としている。そこからの空はどこまでも青く、雲の形は秋から冬に移っていた。

「さあ、最初はなにも装着せずに飛ばしてみよう」

 デーモンは何度も飛ばしたことがあるので操縦には問題はないが、この機種にしてからはまだ屋外でやったことはない。これまでは自分の部屋ばかりだったので一抹の不安がなくもなかった。

 みんなの視線が集中するなか、軽やかな音とともに機体が浮上すると、いっせいに軽い歓声が上がった。地面から背の高さ、そして屋根まであっという間に飛行した。そしてしばらくホバーリングしたあと、デーモンが操るままに機体は右に左に飛翔した。

「金太、やってみないか」

 その言葉を待ち望んでいたかのようにコントローラーを受け取ると、それほど高くない位置でドローンを飛ばした。あまり高度を上げると、もし万が一操縦ミスがあったら取り返しがつかなくなる。

「ノッポもやってみる?」

 そういわれたノッポは、本心はじめてのドローンを操縦してみたかった。だがはじめて挑戦をしてここで墜落させては計画がおじゃんになってしまう。それを思うとどうしても尻込みしてしまうのだった。

 金太が練習飛行をしていたとき、デーモンは家に入って、冷蔵庫からペットボトルを持ち出して来た。

「さあ、これで実験をしよう」そういってデーモンはビニール紐でボトルをドローンに括りつけると、おもむろにスイッチを入れ、プロペラを回転させた。

 みんなの緊張感がデーモンの指先に伝わっている。親指にちからを入れると、機体がゆっくりと浮上しはじめた。全員の緊張が一瞬にして緩んだ。機体はゆっくりと浮上して、計算どおり成功した。そしてそれを2、3度繰り返したあと、デーモンがひとつ提案した。

「どうやらこの重さが限界のようだ。そうなると、リュックも一緒にということは無理かもしれない。だから、アイコがさっき見せてくれたリュックにネズミが持って来た非常食用ラーメン、それに醤油入れに水を入れて飛ばしてみよう」

 準備が整うとデーモンは祈る気持で操縦レバーを動かした。機体はなんとか浮上はしたものの、見るからに不安定でスピードに乗らなかった。

「やっぱ無理だ。素早く乗船作業を終えるには、墜落リスクを考えると2回に分けて飛んだほうが間違いない」

 デーモンが悔しそうに片目をつぶって説明した。

「デーモンがいうならそのとおりにしよう。なあみんな、いいよな?」

 金太はみんなの顔を順番に見ていった。

「よかよ」「いいわ」「いいよ」

 全員の意見が一致したところで、本番に向けて何度も飛行訓練を行った。

 お昼少し回った頃、君代さんがみんなを呼びに来た。お昼ごはんの用意ができたということだった。メニューは味噌ラーメンだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る