第35話

「……ごめん、一生懸命考えたんだけど、なんにも思いつかなかった。っていうか、ネズミと同じようなことを考えたんだけど、ちょっとネットで貨物のことを調べたら、簡単ではなさそうなので、これはボツだなと――そうしたらネズミが同じことをいうもんだから、つい強い言い方になっちゃった。ごめんね、ネズミくん」

 アイコはくんづけでネズミに謝罪した。

「そうだったのか。ぼくはそこまで調べなかったから……」

「まあまあ、みんないろんな事情があるからしかたないさ。そうなると、あとは秀才のノッポに頼るしかないようだ」

 金太は、安心しきった表情でノッポの肩を掴みながらいった。

「いろいろ考えたんやけど、やっぱり誰かに頼むのがいちばんいいんと違うかなァ」

「誰かに頼む?」

 これまで静かにみんなの話を聞いていたデーモンが訊いた。

「そや。例えば、デーモンの場合と同じように、スーツケースに隠れて飛行機に乗るとか、船だったら、事情を話して船に乗るまで誰かに頼むとか、それくらいしかないんやなか?」

 ノッポはメガネをかけ直してそういうと、鳥カゴのなかでこちらの様子を覗っているジョージを見た。言葉はわからなくても自分のことを話していることぐらいはわかるジョージは、何度もテンガロンハットを被り直しながらこちらを見ている。

「でも、人に頼むといっても、誰に? そんな犯罪行為に簡単に手を貸して人なんかいないよ。たまたま知らなかったからこうなってしまったけど、もしぼくがこっちに帰って来るときに前もって相談されたら、ぼくは間違いなく断ってた。誰だってそうするだろ?」

 けしてデーモンはわるくないのだが、デーモン自身はいまでも犯罪の片棒を担いでいると後悔している。

「オレもそう思う。だって、見つかったときのことを考えると、ションベンちびりそう」

 金太は、両手で股間を押えながら立ち上がった。

「やめて金太」

 アイコは怖い顔で金太たしなめた。

「ごめん。またアイコに怒られちゃった」

 金太は頭を掻きながら謝る。

「そげんこつ置いといて、どげんしたらよかか考えんといかんばい」

「そうね、なにかいい方法ないかしら。ところで、金太はまだ発表してないけど、どうなのよ」

「正直いって、みんなと同じで、まだいい考えが思いつかない。もう少し時間が欲しい」

 と金太がいうと、あとを引き継ぐようにデーモンも時間の猶予を乞うた。

「ちょっと提案があります。もう12時を過ぎてお腹も空いて来たことだし、ぼくの家に場所を変えて、昼飯を食べながら相談したいと思います」

 金太は、椅子から立ち上がってみんなの顔を見ながらいった。

 ジョージも連れて行かなければいけないので、いつもの白い箱に移し、ぞろぞろと小屋から出たそのときだった。突然ハシブトガラスがひと鳴きしたあと、威嚇でもするかのように黒い翼を大きく広げてみんなの頭上を飛翔して行った。

「この野郎!」

 小屋に鍵をかけ終えた金太が西の空を見上げて怒鳴りつけた。

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