第26話
湧き立ったお湯のなかに麺の固まりを放り込み、しばらくして粉末スープを投入した。充分に麺が解れたのを見届けると、そっとガスコンロのスイッチを切った。いつも母親がラーメンを作ってくれるときに必ずチャーシューを入れてくれる。ならば冷蔵庫にストックがあるに違いないと重い、肉を保存するケースを開けると、果たしてジップロックに入った3枚にチャーシューが残っていた。
金太はチャーシューを3枚ともラーメンの入っている鍋のなかに放り込んだ。箸でぐるぐるとかき回したあと、そのままリビングに運んだ。
リビングのガラステーブルに片手鍋を置くと、2、3本の麺を茶碗に移して、そこにスープを少し入れた。ジョージが食べやすいように小分けしたのだ。
テーブルに上げられたジョージは、珍しそうに茶碗のなかを覗き込む。醤油スープの香ばしい匂いが鼻腔を擽る。ジョージは金太に片目をつぶりながら親指を立てた。
金太が茶碗のラーメンを息で冷ましてやると、この長い箸では食べられないことに気づき、キッチンにフルーツ用のフォークを取りに行った。
急いで戻って来ると、ジョージが茶碗のそばにひざまずき、じっと覗き込む姿があった。
「ごめん、ごめん。さあもう熱くないから、これでゆっくり食べたらいい」
金太はフォークで麺をできるだけ短くしてやると、そのフォークをジョージに手渡した。
ジョージの食べ方は、右手でフォークを持ち、左手で麺を掴んで口に運ぶというすさまじい食べ方だった。充分に冷ましたつもりだったのだが、猫舌のアメリカ人にはまだ冷め切ってなかったようで、手こずりながら麺と格闘していた。
ジョージがスープを飲みたいというので、茶碗を傾けて飲みやすいようにしたとき、玄関のドアが開く音が聞こえた。姉の増美が帰って来たのだ。
(ヤバい!)
金太は咄嗟にテーブルからジョージを降ろしてソファーの下に隠し、なに喰わぬ顔でテレビを観ながらラーメンを啜った。
「なにやってんの?」
いきなり頭上から増美の大きな声。
「なんだよう、びっくりするじゃないか。見てわかるだろ、ラーメン喰ってんだよ」
金太は面倒臭そうな顔で増美を見たあと、片手鍋のなかに顔を突っ込んだ。
「こんなこともあるんだ。いつもお母さんに作らせて、自分で拵えるなんてしなかったじゃん」
「しかたないだろ、だってきょうカアさんいないもん」
ふたたび鍋に顔を突っ込む。
「わたしもお腹空いたから、なにか食べよっと」
わざと金太に聞えるような声で、キッチンに行くと、しばらくしてパンの焼ける香ばしい匂いがリビングにまで漂って来た。
その匂いにつられたのか、ジョージがソファーの下から顔を覗かせる。金太は慌ててジョージの顔のあたりに手のひらを持って行った。
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