第22話
「なんて?」
金太は横から犬小屋を覗き込んで訊いた。
「腹が減って、ついでに咽喉も渇いたって、文句いってる」
「まあ、確かにな」
金太は苦笑いを浮かべながら壁にもたれかかった。
「金太、飲む?」
デーモンはコンビニの袋から缶ジュースを2本取り出した。
「サンキュ」
表面が結露で濡れている缶を受け取ると、手にした缶を一周させたあとプルトップを引いた。咽喉を冷たい液体がゆっくりと流れ落ちて行くのがわかる。
ふたりはひと口飲んだあと、顔を見合わせて笑った。
毎日とはいかないが、できる限り金太は学校が終わったあと、デーモンと一緒に小屋を覗いた。
ある日、金太がデーモンより10分ほど遅れて小屋に行くと、デーモンが真っ青な顔になってジョージの寝場所(犬小屋)を覗き込んでいた。
「どうしたんだ、デーモン」
金太は事の重大さが小屋に充満する空気で察知することができた。
「大変だ、どうしよう」
デーモンはうろうろするばかりで、一向に説明しようとしない。
「だからどうしたんだよォ」
金太は少し焦れて来た。
「ジョージが怯えて寝場所から出て来ないから、理由を聞き出したところ、どうやらここにジョージより図体のでかいねずみが出たらしいんだ」
「ねずみ? まさかあのオレらのネズミじゃないよな」
「違う違う、本当のねずみだ。大きさは、金太の躰で表現すると、巨大なクマほどあったらしい」
「まじィ。どっから入ったんだろ」金太は小屋の隅を順番に点検しはじめた。「おいデーモン、どうやらここらしい。こんなところに10センチほどの穴が開いてる」
金太が指差したところは、入り口からいちばん遠いところの壁際だった。
「ほんとだ。ヤツはここから出入りしてたのか。ジョージがいうには、真夜中になにか物音がすると思って目を覚ましたんだけど、真っ暗でなにも見えなかった。でも間違いなく音がするので、しばらく様子を覗っていると、パリパリとなにかを食べる音がずっとしてた。ジョージは気味悪くなって寝場所の隅に毛布を被ってじっとしていた。ようやく目が暗闇に慣れてきて、寝場所からそっと音のするほうを覗き見ると、三角形の顔で長いひげをしきりに動かし、大きな前歯でポテトチップスを頬張る巨大で真っ黒なねずみがいた、というんだ」
デーモンは金太に一生懸命説明した。本当にジョージのことを心配しているようだった。
「そういうことなら、とりあえずあの部分を塞ごう」
そういったあと金太は小屋のなかを歩き回り、ねずみが出入りできなくなるようなものを探した。
「これなんかどうだろう」
デーモンが金太に見せたのは、小屋の外に落ちていた割れたカワラだった。
「それじゃあだめだ。床の下から頭で押し上げたら簡単に動いてしまう。それじゃなくてこれを使おう」
金太は、秘密結社の掟が書かれた巻物の入ったブリキの菓子箱のフタを開けると、フタを持って小屋の隅に行き、穴の上にそっと置いた。
「デーモン、ちょっと手伝ってくれ」
金太とデーモンは木製の机を移動させ、机の足をブリキのフタの上に載せた。
「これなら絶対にねずみは入って来ないだろ」
金太は自慢げな顔でブリキのフタを指差した。
「金太、せっかく机を移動したんだけど、どうもだめみたい」
ちょっと首を傾げるようにしてデーモンはいった。
「だめみたいって?」
金太は自分の決断を否定されたと思ったのか、やや不機嫌な口調で訊いた。
「いまジョージと話をしたんだけど、いくらあいつが入って来ないとわかっていても、あの恐怖はそう簡単に拭えるもんじゃないようだ。目蓋を閉じるとあの真っ黒のバカでかい図体が浮かんで来るから、とてもここにはいられないっていってる」
「まあ、確かに、オレたちはそのどデカイねずみと出喰わしたわけじゃないからその恐怖感はわからないけどな。でもここがだめとなると行き場所が見当たらないよな」
「しょうがない、またぼくの家に連れて帰るとしようか」
デーモンは肩を落としていった。
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