第19話
つと金太が声のほうに顔を向けると、階段を降りて来たのは、
中1のとき金太をイジメたときのリーダーがこの中曽根大基で、金太は勇気を振り絞って度胸試しをやった場所がこの稲田神社だった。結果は大基が恐れをなして夜の神社に行かなかったことで金太の勝利となった。
だが、度胸試し以降ふたりは仲良くなって、ひょっとしたらデーモンより先に秘密結社に加わっていたかもしれない。いまは別の中学校に通っているので、近況はまったく知らない。
「大基じゃないか」
金太は大基が降りて来るのを待って、手水舎のほうに移動した。
「元気でやってる?」
大基は久しぶりに会って、ちょっと恥ずかしそうにいった。
「うん。きみは?」
「元気だ。もう中3だもんな。金太も受験で大変だろ?」
「まあ。大基は?」
「オレは勉強がからっきしだから、いま野球のほうにちから入れてる。どうなるかわかんないけど、そっちのほうで進学できればと思ってる」
大基は苦笑いをしながら頭を掻いた。
「ということは、甲子園に行って、その後はプロ野球の選手ってわけか」
「そうなれば最高だ。上手くいってプロになれれば、カアちゃんを楽にしてやれる」
大基の目は、中1のときと違って、きらりと光っているように見えた。
「まあ、お互いに頑張ろう。そいじゃあ」
そういって、金太は待たせてたデーモンと一緒に本殿に向かって石段を昇りはじめた。
見回すと、すでにほかのメンバーの姿はなかった。
人を掻き分けるようにして頂上まで行くと、ノッポとネズミがふたりして大きなアメリカンドッグに齧りついている姿があった。
「おーい」声をかけながら金太とデーモンはふたりに駆け寄る。「いま階段のところで大基に会ってさ、ちょっと話してた。元気そうだったよ」
「ダイキって、あの大基がおったト?」
ノッポは、忘れていた転校早々にあったイジメを思い出したのか、眉間に皺を寄せながらいった。
「ああ、みんなによろしくっていってた。ところで、それどこで売ってた?」
金太は、ネズミの手にしたアメリカンドッグを見据えながら訊く。
「あそこで売ってた。結構うまいよ」
そういってから、見せびらかすようにネズミは齧った。
「じゃあ、オレも買って来よう。デーモンはどうする?」
「アメリカンドッグ?」
デーモンは怪訝な顔でふたりの持ってるアメリカンドッグを交互に見ていった。
「おい、おい。おまえニューヨークに住んでたんだろ。だったらアメリカンドッグくらい知ってんだろ?」
「そういっても、アメリカにはアメリカンドッグはないよ。似たようなのでコーンドッグっていうのがあるけど、あまり人気がないんだ。だからぼくも食べたことがない」
「わかったよ。じゃあ、オレがおごってやるから買いに行こ」
金太はデーモンの袖を引っ張るようにして、アメリカンドッグと赤い字で書かれたのれんが下がっている店に向かった。
アイコと優芽の姿がどこにも見えない。金太がノッポたちにアイコたちのことを訊いたが、食べることに夢中でまったく気づかなかったという。
だが、金太はあまり心配しなかった。あのしっかり者のアイコが一緒だからちゃんと優芽の面倒を看てくれていると思ったからだ。
あたりを見回してもアイコたちの姿がなかったことで、金太たち4人は、アメリカンドッグを手にしたまま石段を降りはじめた。そこからは、帰りを急ぐ人の頭ばかりで、とてもアイコたちを見つけることはできない。
階段の下の手水舎の場所まで来たとき、こっちに向かって手を振るアイコたちの姿が目に入った。それを見た金太は、ほっとした表情でアイコたちに近づいて行った。
アイコの右手にはピンク色の大きな綿菓子が握られている。優芽の頭には、キティちゃんのお面が載っている。そして右手にはアイコからもらったのか、ちぎった綿菓子があった。
「お兄ちゃん、これ、アイコお姉ちゃんからのプレゼント」
優芽は頭のキティちゃんを指差していった。
「本当に? いいの、アイコ?」
「いいのよ。だって優芽ちゃんと一緒に歩いてたら、なんだか妹のように思えて来て、そいで買ってあげたの。ぜんぜん平気」
アイコはひとりっこなので、お姉ちゃんの気分に浸りたかったに違いない。
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