第18話

「優芽ちゃん、あそこ、ほら、いっぱい電気が見えるでしょ」

 通りの左側に、外灯の明るさに負けそうな屋台の電気がいくつも見えている。

 金太が腕時計を覗くと、時計の針はやがて7時になろうとしていた。

 金太たちを見つけたのか、ネズミが大きく手を振っている。その横にふたつの影が寄り添うようにあるのが見えた。ノッポとアイコに違いない。

 金太は、小走りに近づくと、「ボラーァ」とあたり構わず大きな声で挨拶をする。みんなも負けじと元気よく返した。そのあと、ノッポたちがいっせいにデーモンの横で隠れるようにしている優芽に視線を向けた。

「あのさァ、この子、デーモンの妹で、優芽ちゃんっていうの。ずっと向こうにいたから、お祭りを知らないだろうと思って誘ったんだ」

 金太は歩道の隅に寄って優芽を紹介した。

「そう、これぼくの妹。きょうだけの臨時のメンバーです。よろしく」

 そういいながらデーモンは妹の肩に手を置いた。

 それを聞いたノッポたち3人は、次々に自己紹介をする。

「優芽ちゃん、お祭りははじめて?」

 アイコは姿勢を低くして優芽に話しかける。優芽は、首を2度ほど立てに振った。

「じゃあ、お姉ちゃんと一緒に行こ」

 アイコは手を差し伸べながらいった。

 

 稲田神社は斜面の土地に建てられているので、通りからすぐ階段になっていて、平坦な参道というものが極端に短く、しばらく歩くと急な石段となり、少し踊り場のようなのがあったと思うと、すぐまた急な石段がはじまる。何十段も昇ると、ようやく地面が平坦になり、その奥が本殿という造りになっている。

 だから、屋台があるのは、通りの歩道部分に少しと、階段までの平坦な参道の両側、そして頂上部分の平坦な場所、普通の神社に較べて極端に店を出すスペースがない。屋台の数は全部で15軒あるかないかである。

 しかし、祭りの屋台を楽しみにしている者にとってそんなことどうでもよかった。とにかく楽しければいいのだ。

 今年の秋祭りは去年より人の出が多い。神社の入り口からぞろぞろ歩きになっている。躰がくっつきそうになりながら歩いていると、最初の店は焼きソバ屋だった。風に乗ってソースの焦げた匂いが押し寄せて来る。1時間前に夕食をすませたばかりなのに、腹の虫が鳴きはじめている。それを横目で見ながら進んで行くと、隣りには風船釣りの店があり、小さな女の子が父親と一緒に色とりどりの水に浮く風船を覗き込んでいる。

 先にアイコと優芽が手を繋いだまま歩いている。デーモンはときどきふたりの後ろ姿を覗き見るようにしながら歩いている。気がつくと、メンバーは自然とふたりずつになって楽しそうに歩いていた。

 先ほどまで気になっていた薄暗い闇も、ここでは遠くに押しやられてしまい、まるで昼間と勘違いするくらい多くの照明が灯っている。

 手水舎(手を洗い清める場)のところまで来ると、少し広くなって、手を洗う者とそのまま石段を昇る者とに別れるため、人の流れにゆとりができた。

 アイコと優芽は手水舎に向かう。石段は左側通行になっていて、右の石段はお参りをすませた人たちがゆっくり落ちる滝のように人が流れて来る。

 金太たちが石段を昇ろうとしたとき、「おう」と聞き慣れない声が上のほうから聞こえた。

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