第15話
金太は、はじめて見る生き物に反射的に身を引いた。そしてもう一度そっと箱のなかを覗いてみる。
テンガロンハットを被り、革製のウエスタンベストを着て、ジーンズを穿いている。足元は鳥の羽根の模様の入ったウエスタンブーツだった。口ひげを蓄えているところを見ると、完全に成人しているに違いない。
「なんだよ、こいつ。人形か、生き物か、人間を小さくした人間か?」
「一応、人間だ。メシも喰うし、ウンコもする」
デーモンは、箱のなかを確認するかのように覗き込んでからいった。
「ちょっと待ってくれよ。テレビとかでちっちゃいオジサンとか、武将の格好をした小さな生き物を見たという話は聞いたことがあるけど、これェ……?」
金太はそんなファンタジックな生き物がいるんだったら一度見てみたいと思っていた。だが、目の前の白い箱のなかにいるといっていきなり見せられてもとても信じられるものではなかった。
「そう、これ」
「デーモン、オレ頭がわるいから、もう少しちゃんと説明してくれないか?」
「うん、ちゃんと説明するよ」
デーモンは、ようやくいつもの顔になって椅子に座り直すと、ぽつりぽつりと話しはじめた。
デーモンは1ヶ月前に父親の仕事の都合でニューヨークから帰って来た。それはいいのだが、2週間ほど前、デーモンは自室の壁際でなにかを見たような気がした。そのときは目の錯覚だろうと気にしなかったのだが、勉強机の下とかベッドの下で小さな物音が頻繁にするようになった。
ある日の真夜中のこと、部屋のなかになにかがいると感じたデーモンは、それがなにであるか自分の目で確かめようと思い、寝た振りをして確かめることにした。
案の定部屋が暗くなると、ベッドの下あたりから物音がしはじめ、やがて部屋中を歩き回りはじめた。デーモンはチャンスを覗い、勉強机とベッドの間あたりに来たときに、手に隠し持っていたペンライトを床に向かって点灯した。
すると光りのなかに浮かび上がったのは、腕で光りを遮る仕草を見せる、カーボーイ姿の小さな男だった。
デーモンは一瞬ねずみでも出たのかと思ったのだが、人間の姿を見ても一向に逃げる様子がなかったことでちょっと安心した。だが、ペンライトの灯りだけでははっきりしなかったため、そっとベッドから抜け出して部屋の照明を点けた。
間違いなく人間の格好をした生き物だった。だが、デーモンはそれを見てもまだ信じられなかった。
「誰だ?」
思い切ってデーモンは声をかけた。
「アイム、ジョージ。フロム アメリカ」
「ええッ! ということは……」
ジョージと名乗る男は、デーモンが帰国するときに荷物に紛れ込んだに違いない。
その後、深夜までデーモンはジョージと話をした。
それによると、ジョージはアメリカ生まれのアメリカ育ちで、20才くらいのときにオアリゾナ州のグリ-ンバレーからニューヨークに出て来た。おばさんがミズーリ洲に住んでいるらしい。いま35歳になるのだが、あるとき観たテレビで日本に興味を持ち、いつか行ってみたいと思っていたところ、偶然デーモンが日本に帰国するということを小耳に挟んだので、このチャンスを逃したら2度とないと思い、わるいとはわかっていたがデーモンのスーツケースに潜り込んだということらしい。
そんな話を聞いているうちに全身が冷えて来て、デーモンはジョージと一緒にベッドに潜り込み、さらにその続きを聞いた。
これまで食事はどうしてたのかデーモンが訊くと、みんなが寝静まったあと、キッチンに行って生で食べられる野菜を齧ったり、スナック菓子の残りを漁ったりしてなんとか飢えをしのいで来たといった。それともうひとつ肝心なことで、トイレはどうしたかとたずねると、大も小もベランダに出るサッシの溝で用を足したと恥ずかしそうにいった。
洗濯は一度もしたことはなく、風呂も入ったことがない。最近になって躰のあちこちが痒くなって来た。そういえば、顔の近くにいるジョージは異様な臭いを放っていた。
デーモンは、あした学校があるから、そろそろ寝ないといけない。また学校から戻ったら続きを聞くから、それまでこれまでどおりどこかに隠れていて欲しい。そうジョージに伝えた。
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