第11話

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 いままでよりデーモンとの距離が縮まった金太は、次の土曜日、友が淵公園にデーモンを魚釣りに誘った。ノッポのときも同じように釣りに誘った。金太はこれがいちばん仲良くなる最良の方法と思っているに違いない。

 ほかのメンバーにも声をかけたが、みんなそれぞれ用があるから行けないといった。

 金太はふたり分の釣り道具を持って、デーモンの家に向かった。何度も通った家だから迷うことはなかった。家の前まで行くと、すでにデーモンが自転車に跨って金太の来るのを待っていた。

「ボラーァ」

「ボラーァ」

 デーモンのきょうの挨拶は結構サマになっていた。

「さあ、行こう」

 金太は先になって池に向かう。その後ろをピタリとデーモンがついて走った。

 残念なことに、金太の指定席はすでに誰かが竿を垂れていた。そんなことに慣れてる金太は、気にもせずに別の場所に陣取った。

「これ使っていいから、それにこれも」

 金太は釣り竿と仕掛けや餌入れの器をデーモンに手渡した。

 最初は戸惑っていたのだが、金太に教えてもらうと、進んで餌のマッシュポテトを練りはじめた。

「魚釣りははじめてじゃないんだったよね」

 金太はマッシュの硬さを気にしながら訊いた。

「うん、でもこんな餌をつけて釣る釣り方ははじめてだ。向こうでは、ほとんどがリールでのルアー釣りだから、こんなふうに自分で餌を拵えて魚を釣るのははじめてだよ」

「そういうのテレビで観たことあるよ。ブラックバスとか釣るやつ」

「ぼくは一度だけブラックバスを釣り上げたことがあるけど、自分ひとりでは上げられなくて、パパに手伝ってもらったことがある。こんくらいのブラック」

 デーモンはそういって肩幅より10センチほど大きく手を広げて見せた。

「オレはそんなの釣ったことない。だって、オレが釣るのはこの池ばっかだから、ここにはそんな大きなのはいないんだ。ひょっとしていたとしても、池の主くらいだ」

 話しながら準備をすませたふたりは、息を合わせたように竿を振った。ウキがゆっくりと立ち上がったとき、水面に小波が立ち、キラキラとガラスのように反射した。視線を上にあげると、秋を想わせる赤とんぼの群れ飛ぶ姿があった。

 何度も餌打ちしているうちに、ようやくウキが変化を見せるようになった。

 そして最初に釣り竿がたわんだのは、デーモンのほうだった。リールとは違った釣りだが、釣り経験のあるデーモンは落ち着いて手首を返し、魚を針にかけた。その瞬間水面が盛り上がり、大きな波紋が湧き上がった。

 デーモンは慌てなかった。魚の口を水面から出し、暴れないように気をつけながらゆっくりと岸に寄せた。釣れたのは、20センチほどのヘラブナだった。

「ヘラか、まあまあの形だよな」

 金太は先を起こされて余程悔しかったのか、横目で見たあとすぐに竿を振った。

 デーモンはヘラブナを針から外すと、そっと池に戻してやった。そしてまた針に新しい餌をつけると、先ほどと同じ場所に打ち込んだ。

 一方金太は、なかなか当たりがないのか、頻繁に餌をつけている。

「きょうは調子がわるいな」と、独り言のように呟く金太。

 そのとき、またしてもデーモンの竿が大きく撓った。先ほどより大きな波紋が起こった。池の隅々まで伝わるような波だった。

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