第9話

「なあ、みんな、きょうはデーモンの日だから、聞きたいことってなにかないか?」

 かわり玉の色に集中しているメンバーに向かっていった。

「じゃあ、はい」待ち構えていたかのようにアイコが手を上げた。「長いこと向こうにいたんだから、当然英語はぺらぺらなんでしょ?」

「うーん、まあ日常会話ならなんとか大丈夫だけど、難しい単語は習ってないから自信はない。でも、いま習ってる学校の授業は文法ばかり重点的にやるから、おもしろくないと思う」

 デーモンは口のなかで一度かわり玉を転がしたあと、アイコのほうを見ていった。

「そうそう、オレの姉ちゃんも一度デーモンに、どれくらい話せるのか聞いといてくれっていわれてた。ひょっとしたら、高校生だからヒアリングのことを聞きたかったんじゃないかな」

 金太が話に乗っかって来た。

「ヒアリングは慣れだから、たくさん聞くよりないんじゃないかな。ぼくはそう思うけど」

 デーモンは自信なさげにいった。無理もない、デーモンはただ父親の仕事の都合でニューヨークに住んでただけだから、みんなが思うほど英語というものについて真剣に考えたことがない。

「デーモンさんに質問があります」

 今度はネズミが挙手をした。

「なんだ、ネズミ」と、金太。

「ニューヨークって、見たことないんだけど、高層ビルがいっぱいあるんでしょ?」

「あたり前じゃないか。東京よりすごいんだから」

 返事をしたのはデーモンでなく金太だった。

「金ちゃんに聞いてないよ。だってデーモンさんに質問ないかって聞いたのは金ちゃんじゃないか」

 ネズミは口を尖らせて抗議する。

「ごめん、ごめん。わるかったよ。じゃあ、デーモン、ネズミの質問に答えてやって」

「確かにニューヨークはすごい街で、ネズミくんがいったように無数の高層ビルが立ち並び、世界中の人が集まって来ているから、人口もさることながら人種も雑多で、例えるならおもちゃ箱のなかみたいな場所だよ。でもぼくはニューヨークの真ん中に住んでたわけじゃなく、少し離れた郊外に家があったから、滅多に街中には行かなかった」

 デーモンは少し懐かしむような顔でいった。こっちより向こうのほうが友だちが多くいることや、まだこっちの生活に慣れてないことがあるからかもしれない。

「ちょっと家に戻るから、それまで自由に話してて」

 そういい残すと、金太は急いで小屋を出て行った。

 そういわれても、すぐには話題が見つからない。しばらく沈黙が続いたそのとき、

「向こうの学校でイジメはなかったト? だってアメリカ人のなかの日本人やろ? 日本人どうしでもイジメはあるけん……」

 そう質問したのはノッポだった。そしてノッポは、2年前に福岡から転校して来て、様々なイジメに遭い、それを金太が助けてくれたことで、ロビン秘密結社の仲間になったいきさつをデーモンに説明した。

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