第8話

「新加入者はまだ来とらんト?」

 ノッポは小屋中を見回すようにしていった。

「うん、まだ」と金太がいったとき、扉の外で物音が聞えた。

 4人がいっせいに扉に目を向けたとき、そっと覗くようにして涼介が顔を出した。

「ボラーァ」

 先に金太が声を出した。

「ボラ」

 はじめての挨拶に少し恥ずかしそうな涼介。

 ほかの3人は冷凍室に閉じ込められたかのように固まって身動きひとつしなかった。

「さあ、こっちに入って。みんなメンバーに加わることになった、河合涼介くんです。みんながよく知ってるあの河合のお爺ちゃんの孫で、ニックネームは『デーモン』にしました。これは、アメリカにいたときに友だちがつけたものらしいです」

 金太は簡単に涼介を紹介すると、例の巻物を取り出して広げると、河合涼介と書いたサインをみんなに見せた。

 金太は、涼介にメンバーひとりずつ紹介しはじめた。

「ぼくはD組の柳田トオルといいます。よろしく」

「わたしは早乙女愛子。F組よ、よろしくね」

「ぼくは、まだ2年生です。袴田孝弘といいます。ここではネズミって呼ばれてます」

 3人は丁寧に自己紹介をした。

「河合涼介といいます。ぼくは金太くんと同じA組です。金太くんからこの秘密結社の話を聞いて、ちょっと興味が湧いたので仲間入りすることになりました。こっちに帰って来てまだ友だちもいないので、よろしくお願いします」

 涼介はいい終わったあと、きちんと頭を下げました。

「ようし、自己紹介がすんだから、いまから入会の儀式を行います。まず、デーモンにはこれを」金太が机の引き出しから出したのは、「R」の字がぶら下がったキーホルダーで、その先には小屋の鍵がつけられてあった。「これからは、この鍵で自由にこの小屋に出入りすることができる。この小屋には、みんなが持ち寄った、『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』が読み放題だ。デーモンはずっと向こうにいたから、あまり知らないだろ?」

 金太は棚の上に並んでいるマンガ本を指差していった。

「もうひとつ重大な儀式がある」

 ズボンのポケットから小さな紙袋を取り出すと、左の手のひらに中身を開けた。

 出て来たのは、いつも金太が持って来るかわり玉だった。舐めてるうちに段々色が変わるからそう呼ばれる。

「さあ、みんな、好きなのを1個取っていいよ。さあデーモンも」

 それぞれが金太の手のひらからかわり玉をつまみ取ると、顔を見合わせてから嬉しそうに口のなかに放り込んだ。

 5人は揃って視線を床に落としたまま、ひと言も喋らずにただ口のなかのかわり玉を転がしている。時折、カコン、カコンと歯にかわり玉の当たる音が聞こえる。

 いちばん先に口からかわり玉を取り出したのはネズミだった。

「ああ、まだだめだ」

 ネズミは、つまみ出したかわり玉をためつすがめつしたあと口のなかに戻し、その指をズボンの尻に擦りつけた。

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