第74話 昨日の敵は

 揃って抜剣したギャラクシー4と、セイバーズ本隊がバチバチに睨み合っている。

 まさに一触即発。

 その緊張が極限まで高まり、今まさに爆発するといった瞬間、


「――武器を収めろ。撤退だ」

 広場内にくぐもった声が響いた。


 直後、ギャラクシー4の前に白装束の男が降り立つ。

 手で改めて武器をしまうように指示すると、飛ぶような速さで広場の外へ向かって移動し始めた。


 渋々といった感じで武器を収めたギャラクシー4の四人もその後に続く。


 どうやら、超高速で包囲網の一部に穴を開けて脱出するつもりらしい。


 それをセイバーズの怪人達が30人がかりで止めようとするが、


「なんだこいつら!? 速すぎて見えな――ブフォッ!!!」

目にも留まらぬ速さであっさり突破された。


 そのまま、音すら置き去りにするような速度で真っ直ぐ広場を去って行く。


「ちょうどいい。俺達もあそこから逃げるか」

 そう思った俺とテツが移動しようとしたその時、


「ちょっと待て! 貴様ら!」

目の前に巨大な影が降ってきた。

 激しい音と共に巨大なクマ型怪人が立ち塞がる。


(げ、デスベアー!?)

 その恐ろしい剣幕に気圧され、慌てて足を止めた。


 またも一触即発。

 今すぐにでも殴りかかって来そうなデスベアーの前に、


「ちょーっ、ストップです親方! この二人は俺を助けてくれたんすよ!」

人の姿に戻ったベオウルフが滑り込んでくる。


「何? 助けただと?」


 それに合わせて、やむなしといった様子でテツが変身を解いた。


「デスベアーの旦那、ご無沙汰してます」

 そして、深々と頭を下げる。


 その姿を見て、


「お前は――ガーディアンズのテツじゃねーか! こんなところで何やってんだ?」

一気にデスベアーの表情が明るくなった。


 街中で予期せず、仲の良い友達に会ったようなテンションだ。


「へい。実はとある任務で先程のヒーロー達を追跡中でして、たまたまベオウルフ殿が襲われるのが見えたので助太刀に入った次第です。友好組織のピンチは見過ごせませんから」


「おーっ! そうだったか! そりゃあ、助かったぜ! リスクもデカかったろうに、わざわざうちの小僧を守ってくれてありがとな!」


 べらべらと都合のいい言葉を並べるテツの背中をデスベアーが、嬉しそうに叩く。


(助ける気一ミリもなかったくせによく言うぜ……)


 それからひとしきり笑った後、スッと真顔に戻ったデスベアーが言った。


「して、何故その根暗野郎と一緒にいる?」

 その瞬間、ベオウルフがサッと真っ青になる。


(だーれが根暗野郎じゃ)


「こいつは――ボディーガードですよ。ちょっと伝があって。今回の任務の為に外から雇ってるんです」

「ほう、ボディーガードねぇ……まあ、お前が言うならそうなんだろう。おい、反英雄アンチヒーロー!」

 深く頷いたデスベアーがくるりとこちらを振り向いた。


「今回はお陰で助かったぜ! 特別に礼を言ってやる! まっ、俺はお前みたいな卑怯者は嫌いだけどな!」


 それに、正体がバレないように裏声で元気よく答える。


「いいよーっ!」


 ピキッ。

 明らかにデスベアーがイラッとした顔をするが、無視してさっさと背を向けた。


「そ、それでは、逃げたヒーローを追うので俺達はこれで」

 危険を察知したテツも慌てて後を付いてくる。


 その背後で、


「なんだあいつのあの舐め腐った態度は!? 次会ったら八つ裂きにしてやる!」

「お、落ち着いて下さい親方! あいつあんなんでも無茶苦茶強いんですから……」

激高するデスベアーと必死に宥めるベオウルフの声が延々と聞こえていた。



☆☆☆☆☆



 耳にスマホを当て、薄暗い路地に潜む。

 向かいの細い路地を見ると、俺とは別の黒い影が潜んでいた。


 のっぺりとした仮面を被った細身の男。

 その視線の先には、屋台ラーメンで飯を食うスパイラルの姿がある。


(ストーカー野郎、やっと姿を捉えられたな……)


『それで? 結局、ギャラクシー4全員に見張りが付いていたのかい?』

 耳元のスピーカーからティガーの声が聞こえてくる。


「ああ。仮面舞踏会の遣いが一人一人の行動を徹底的に監視している。当初は怪人側の内通者がギャラクシー4に情報を流して戦果をあげていると思ったが――違うな」

『ふむ』


「実態は協力関係というより支配関係に思える。解散した筈の仮面舞踏会が何故かまだ活動していて、ギャラクシー4を手足のように使っている」

『へぇ、それは不思議だね。解散した筈の仮面舞踏会がまだ活動してるのもそうだけど、元五帝であるギャラクシー4が大人しく言うことを聞いてるのが謎だ』


「ん? そうか?」

『ああ。仮面舞踏会は元々ボスである“ヘルツリー”のワンマンチームだからね。頭が消えた今、元五帝を押さえ込むほどの力はないよ』


「ふーん、まあそんなものか。でも、あれだぞ? この前、セイバーズと戦った時にいた白装束の仮面野郎、普通にS級クラスの威圧感だったぞ?」

 首を捻った俺が言うと、電話の向こうから訝しげな声が聞こえてきた。


『そいつら――本当に仮面舞踏会かい?』


 改めてそう問われると、断言は難しい。


(仮面の下の素顔を見た訳ではないからな……)


『どちらにせよ、僕らの知らない秘密があるのは確かだね。十分気をつけなよ』

「ああ、分かってるよ」

 ティガーの言葉に頷きつつ、尋ねる。


「それで――これから俺達は何をすればいいんだ?」

 完全に丸投げだが、仕方がない。

 何も思いつかないのだから。


 というか、こういう時の為にこいつがいる。


『次の手は簡単さっ! 奴らを仲違いさせてやろう!』



☆☆☆☆☆



 その日、いつも通り行きつけの屋台ラーメンに立ち寄ったスパイラルは浴びるように酒を飲んでいた。


 先日、セイバーズの武器製造工場への襲撃に失敗して以降、仮面男達からの当たりが強くなっている。


(ちくしょう、反英雄め。あいつのせいで何もかもぶち壊しだ……)


 やけくそになったスパイラルが焼酎を煽っていると、


「おっ、スパイラルさんお久しぶりです」

暖簾をくぐって顔色の悪い男が入ってくる。


「おー! ダマオ、久しぶりじゃねーか! 一緒に一杯やろーぜ!」


 しかし、喜んだのも束の間、


「スパイラルさーん。こいつ、そこの路地からスパイラルさんを見張ってたみたいなのでボコって連れてきました」

続いて暖簾をくぐって来た黒髪オールバックの男、テツの登場で一気に血の気が引くのを感じた。


(こいつ、やりやがった……!?)


 その手の先では、ボロ雑巾のような見るも無残な姿になった仮面の男が引きづられていた。

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