第16話 確執
関東スーパーヴィラン会議終了後、会議場横のパーティー会場で華やかな食事会が行われていた。
情報交換を主目的とした立食パーティーだ。
(このチキン美味ぇ〜)
他の怪人達には目もくれず一心不乱に唐揚げを摘む。
そんな俺の真横でボスとティガーが会議の内容を共有していた。
「なるほど。近年ヒーロー軍が導入したライラック式サテライトスキャンに対抗しての新型フェアリージャミング導入ですか。悪く無いですね」
「ああ。向こうもまさか怪人組織が結託して最新兵器を導入してくるとは思っていないだろう」
先程から二人の会話に耳をそば立てているが、非常につまらない。というか、殆ど理解できない。
(暇だし、トイレ行こ)
早々に飽きて会場を出る。
トイレを済ませた俺が再び会場に戻ると、入口でダンディーな髭紳士に話しかけられた。
「君、ガーディアンズの子だね? 君達のボスに会いたいのだが……案内してくれるかな?」
黒髪を綺麗に逆立てた如何にも育ちが良いですといった雰囲気の男。
後ろに二人の精悍な若者を連れている。
(誰だこのおっさん? どっかの組織のトップか?)
「いいですよ。ちょうど俺も今からボスの所に戻るところだったんで」
小さく頷いた俺が軽く返事をすると、背後にいる若者二人にギロリと睨まれた。
(うわ、こっわ……)
そのど迫力の視線にビビりながらもボスの元へと案内する。
「ボス、お客人です」
俺が声を掛けると、ティガーと会話していたボスがゆっくり顔を上げた。
そして、静かに目を見開くと恭しく頭を下げる。
「これはワルフ様。ご壮健そうで何よりです」
「こうして会うのは実に10年ぶりか? タイタン、お前も変わりなさそうで安心したぞ」
それにさも当然といった態度で応じる髭紳士。
(げっ、このおっさんあのワルフかよ……)
二人の会話を聞き、驚きを覚える。
“ワルフ”といえば、狼型の怪人だけで組織された怪人組織『ロイヤルスロープ』のリーダーを務める超有名な
狼型の怪人、通称ウルフ族は、血統重視の一族で常に中心に王族がいる。
この王族は人間界で言うイギリス王室の様な立ち位置で、他の怪人たちも往々にして敬意を払う。
「タイタン、今日はお前に頼み事があって会いに来た」
「頼み事ですか?」
俺が驚いている間にも二人の会話は進む。
「ああ。実は我々ロイヤルスロープは今かなり厄介な状況でな。つい先日、ヒーロー軍に特定害悪組織認定されてしまったのだ」
「特定害悪組織認定ですか? それは大変ですね」
特定害悪組織認定とは、ヒーロー軍が『この組織は近いうちに人間社会に大きな害をもたらす可能性が高いため速やかに排除しなければならない』と判断した組織に出されるもので、事実上の宣戦布告だ。
言外で『これよりお前らを潰す』と告げているのだ。
「そこでなんだが、ヒーロー軍との戦いが終わるまでうちの王子を預かって欲しいのだ」
「王子様をですか?」
「ああ。本来なら世継ぎは出来るだけ外部に出さないのが狼族の決まりなのだが、今回ばかりはそうも言ってられん。実はもう一つ大きな問題があってな……」
深刻な表情のワルフがそういった瞬間、
「おうおう、そこにあらせられるのは王族のワルフ様ではありませんか」
不意に会場中に聞こえる程の大音量で荒々しい濁声が響いた。
それと同時に入口の方から謎の男が近づいてくる。
傭兵のような格好をしたスキンヘッドの筋肉ダルマ。
雄々しい髭面で、10人近い部下を引き連れている。
「殿下、お下がりください」
それに対して狼族の若者たちが庇うように前に出た。
しかし、それを制して、ワルフが男と向かい合う。
「これは叔父上、お久しぶりですね。叔父上も会議に招かれていたのですか? 先程は気づきませんでした」
「俺が会議に招かれる? はっ、まさか。ここに来ればお前に会えると聞いてわざわざ出向いてやったのよ」
ワルフの言葉を鼻で笑った筋肉ダルマ。
「さっさと、俺たちを群れに戻せ。さもないと死人が出るぞ」
ガンをつけながら一気にワルフに迫った。
しかし、
「やれるものならやってみろ。逆に地獄を見せてやる」
ガラリと口調を変えたワルフが毅然とした態度で応じる。
二人の間でバチバチと火花が散った。
(なんだ? 身内揉めかぁ?)
一触即発の空気に周りの怪人たちも注目し始めている。
互いの間の緊張感がピークに達しようかというまさにその瞬間、
「何事ですか?」
突如、二人の間に三つの影が割って入った。
横にも縦にもデカい眠そうな3人組。
修行僧を思わせる民族衣装を着ており、顔にタトゥーが入っている。
(げっ!? エレファント族!!!)
象型の怪人、通称エレファント族は、ヴィラン会議の主催者だ。
非常に温厚な性格で争い事を嫌う。
しかし、いざ戦闘となるとその強さは破壊的で、怒らせてはいけない絶対強者として怪人界に君臨している。
彼らに目を付けられて生き残った者はいない。
エレファント族の登場にワルフと叔父が一斉に矛を収めた。
「騒がしくして悪いな、象化の者よ。身内の揉め事で少々熱くなりすぎたようだ」
「興が削がれたぜ……帰るぞ」
ワルフが謝罪を口にすると同時に筋肉質の傭兵男が背を向けた。
そのまま、部下を引き連れて去っていく。
その後ろ姿を見送り、ワルフが滔々と語り出した。
「我々ウルフ族は代々金融業を営んでいるのだが、叔父とその仲間達は以前から取り立てに託けて客を痛ぶる傾向があってな。先日遂に死人を出したので一族から追放したのだ」
ウルフ族は厳しい序列を伴った
群れを作る種族にとって、一族を追放されるということは非常にはずべきことだ。
「なるほど。それで逆恨みをしているというわけですな?」
「ああ。その矛先が私だけでなく息子にも向いて困っているのだ」
納得したように頷くボスに困り顔のワルフ。
二人が真剣に会話をする真横で、不適に笑ったティガーがエレファント族に視線を向ける。
「へぇ、君たちは強そうだねぇ。でも、僕よりは弱いかなぁ」
一人で満足気に呟くティガーをエレファント族が虫けらを見るような目で眺めていた。
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