第8話 怪人流の訓練
「は、はらへった……」
入学式の翌日、警備員に連れ出された俺にサツキは酷くご立腹で朝食は出てこなかった。
タラタラとキーボードを叩いていると、今日もバッチリと髪を固めた禿鷹が近寄ってくる。
「ダマーラさん、タイガーがまたサボってます。連れ戻してくれませんか?奴はダマーラさんの言うことしか聞かないんで」
タイガーは俺の下につく非戦闘員の一人だ。
仕事のできる男だが、酷いサボり癖がある。
「……どこにいるんだ?」
「多分また特訓ルームかと」
(仕方ないなぁ……)
禿鷹の要請を受け、仕方なくフロアの隅の特訓ルームへ向かう。
特訓ルームは禁煙室のような一面ガラス張りの部屋、図書館のように静かだ。
中では20人以上の戦闘部隊の怪人たちが目を閉じて瞑想するという異様な光景が広がっている。
これが怪人流の特訓なのだ。
人間が強くなろうと思ったら筋トレして肉体を鍛えるだろう。しかし、怪人の変身後の姿は筋トレでは鍛えられない。
唯一鍛える方法は理想の姿を強く想い描くこと。
イメージの力は時に重病すら治すという。イメージすることはその人の体をその方向に引っ張る。
怪人の変身後の姿はよりその影響を受けやすいのだ。
簡単に言うと、強くイメージすることで自身の変身後の姿をカスタマイズできるのだ。
あくまで、カスタマイズ。ベースとなる姿形は変えられないが。
精々、カジキマグロの怪人がレイピア状の角をノコギリ状に変えれる程度のものだ。
しかし、中にはこのカスタマイズによって特殊能力を会得する怪人もいる。
この瞑想が怪人としての強さを決定づけることも往々にしてあるのだ。
因みに俺の変身後の姿はバトルスーツを纏った時に最大の力を発揮できるように最適化してある。
脳の並列演算、スーツへの神経の直接接続、肉体電気制御の負荷軽減を可能とする為に、ありとあらゆる急所を表に出してしまっているため、スーツを着ていない時の戦闘力はゼロだ。
というか、なんなら人間の姿の方が強い。
(今では怖くて人前で変身することすらできないからな……)
自虐的に笑った俺が、瞑想を邪魔しないようにゆっくり人の間を進んでいくと、一番奥で何故かサンドバッグを殴りまくってる男を発見した。
筋骨隆々のタンクトップ男。部下の一人であるタイガーである。
スパーンッ!
「お前、何やってるんだ! 非戦闘員が鍛える必要ないだろ!」
後ろから俺が引っ叩くと、
「あっ、ダマーラの旦那」
何事もない様子でタイガーが顔を上げた。
そして、
「何言ってるんですか! 男に生まれた以上、最強を目指すのは当たり前でしょう!」
胸の前で熱く拳を握りしめる。
タイガーは超が付くほどの筋肉バカだ。
脳みそまで筋肉で、なぜ瞑想が必要なのか分からないらしい。
結果、『強くなりたい!』と言って毎日のようにサンドバッグを叩いている。
(ほんと、救いようのないバカだな……)
「うるせぇ。さっさと仕事に戻れ」
その言葉を聞き流した俺がタイガーを引きずってデスクに戻ると、
「ダマーラさん! これダマーラさんですよね?」
鋭い目つきの禿鷹が問い質すように今日の朝刊を見せてきた。
「あ、ああ。まあそうだな」
その隅の小さな記事に昨日の入学式の様子を撮った写真がのっており、講堂後ろの保護者席に座った俺の後ろ姿がバッチリ写ってしまっている。
「国家ヒーロー軍の所有地のど真ん中で何してるんですか!? もしかして、殴り込みの偵察ですか!? 流石ダマーラの旦那だ!」
「いや、そんな物騒なことしねーよ」
横から口を出してきたタイガーに激しくツッコム。
「それで、結局なんでこんなところにいたんですか?」
禿鷹からの質問に包み隠さず答える。
「実はな……妹がヒーローになったんだ」
「「ええー!?」」
俺の回答に周囲の全員が驚きの声を上げた。
「それは困りましたね! 熱いシチュエーションですね!」
「これからどうするんですか!? 怪人とヒーローで同居を続けるんですか!? バレたら大変ですよ?」
普段から暑苦しいタイガーだけでなく、珍しく興奮した様子の禿鷹も詰め寄ってくる。
この会話をきっかけに俺の妹がヒーローになったという噂はあっという間に社内に広がった。
「ヒーローは早いうちに芽を摘むに限る!」
「寝込みを襲うんだ!」とまじめにアドバイスしてくる戦闘部隊の隊員達を見て後から後悔を覚える。
(やべぇ、迂闊に喋ったのマズかったかも……)
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