第3話 ハイスペック
「ただいまー」
仕事を終えた俺がアパートに帰ると、部屋の中は真っ暗だった。
(サツキはまだ帰ってないか……)
買ってきた二人分の弁当を食卓に置き、テレビをつける。
すると、一人のヒーローが強力な怪人を撃退したというニュース映像がやっていた。
期待の新人ヒーロー『クラウン』。
テレビ画面の中でタコのような怪人をボコボコにしている。
彼が纏う全身金色のバトルスーツはかなり細かくカスタムされており、結構なお金をかけているのが一目で分かった。
(ひぇぇ、えげつねぇぇぇ)
そのあまりにも一方的な虐殺劇に思わず震える。
それまで何となく画面を見ていた俺だったが、最後の最後でクラウンが腰からブレードを引き抜いた瞬間に釘付けになった。
白銀の柄から飛び出すビームのような刀身に、淡いピンクであしらわれた花柄の紋様。
(あっ、ライラックの新型ブレード!?)
俺がそう思った直後、クラウンが地面に跪いたタコ型の怪人の頭を切り落とした。
まるで、ナイフでバターを切るようにあっさりと。
それを最後に画面の映像が放送局内に戻ってくる。
その後、テレビ内のアナウンサー達がクラウンの戦い方がかっこいいだのスーツが金ピカでお洒落だの褒めていたが俺は全く聞いていなかった。
(やべぇ、あの新型ブレード欲しい……)
ただそれだけを思い、暗い部屋の中でぼーっとする。
それからどれだけの時間が経っただろう。
「ただいまー!」
やがて、妹のサツキが帰ってきた。
「もう! 電気もつけずに何やってるのよ!」
ハッと我に帰った俺が顔を上げると、今にもとろけそうなニヤケ顔でサツキがそんな事を言ってくる。
「お前、顔とセリフがあってないぞ? 何か良いことでもあったのか?」
俺からの質問によくぞ聞いてくれましたとサツキが満面の笑みを浮かべた。
そして、
「じゃーん!!!」
俺の眼前に一枚のA4用紙を広げる。
『ハイスペック能力測定及びヒーロー適正審査の結果』
その内容に目を通した俺は、予想外の結果に言葉を失った。
(なんじゃこの高い点数は……)
瞬発力、持久力、耐久力などヒーローに必要とされるあらゆる要素で平均より高い点数を叩き出している。
中でも特に凄いのが集中力の項目だ。100点満点中93点という見たことのない高得点の隣に“過去最高”の文字が踊っていた。
(これがあのサツキの点数か? 三年前は全部平均以下だったのに……信じられねぇ)
驚きでふらつく俺の目に更に信じられない情報が飛び込んでくる。
ー 将来的なバトルスーツへの予想最高適合率70%
「て、適合率70パーセント!?」
「そう! 信じられないでしょ!」
思わず声を漏らした俺にサツキが被せるように言ってくる。
(いや、マジで信じられねぇ……)
ヒーローはバトルスーツへの適合率が上がれば上がるほどより人間離れした動きができるようになる。
平均的なヒーローの適合率が30%。
現役最高峰のヒーローの適合率が60%と言われる中で将来的な期待値とはいえ70%は凄すぎる。
文字通り将来有望だ。
「私がこんな高得点を取ったなんて夢みたい! この三年間、休む事なく努力してきて本当に良かったわ! これなら間違いなくヒーローになれるよね?」
「あ、ああ。よかったな……」
興奮気味に叫ぶ妹の問いかけに、俺は辛うじて頷くことしかできなかった。
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