515話 接敵
「よし、よし……結構、慣れてきた」
メイスの攻撃をガンシールドで受けた影響でびりびりと痺れる手を振り、整えながら次のマガジンを入れつつ、バックステップ。あれから少し受けに回って相手の攻撃の感じを見て、こっちの状態が普通になるまで持ちこたえた。いやー、マジで頑張った。ふらつく頭でよく立ち回れたよ。
『爺、そっちは』
『なかなかの強敵で楽しいぞ』
『御馳走は多いんだから、前菜くらいさっと食べてこい』
『美味い物はじっくり味わいたいんじゃがな』
これくらい軽口言いながら戦えるならまだ大丈夫。結構殴られてそこそこ削られてるけど、一応ポーション入れれるし、カコルが結構な大味な戦い方をしてくれてるってのもある。人選ミスしてやんの。
「カコルさん、そろそろケリを付けないと」
「だって、めっちゃ動くんだもん!」
「そりゃそうだろうに」
一応知ってる顔ってのもあるから、こういう会話が続くのも何となく緊張感がない気がする。あー、知った顔を倒すのってなんか罪悪感……はないな。なんだったら知らん奴を倒すよりも気楽かもしれん。なんだが、倒すまでが大変過ぎて厳しい。大味のカコルをしっかりカバーできるのがガヘリスのいい所。あのガウェインをカバーしてるってのを考えたらそりゃ生半可な奴にくっついてるより強いか。
だからカコルの大振りの攻撃に対して反撃射撃を入れたらしっかり魔法障壁でガード。遠距離攻撃の対策ばっちりで本当にもう。
「ああ、もうそれむかつく!」
「一番弱いんですよ、これでも」
こっちの攻撃が直撃しなきゃ良いから、何発か耐えてまた攻撃を振ってこっちの手を止めさせれば良いわけで、そこまでがっつり硬い物じゃなくていい。だから一番コストが掛からず、すぐに使える魔法を使うって訳か。さっきからこの手段でずっと防がれてるのもあるからやっぱりこっちの枚数が問題だ。
『まだか』
ほんと、倒すなら倒すでさっさとメタリカを片付けてきてほしい。
「やるのう」
飛んできた魔法の矢を叩き斬り、納刀して飛んできたほうに駆け続ける。戻れと言われたが、あの時戻れなかったというのが正解だ。何だかんだで飛ばしてくる頻度、威力の微調整が上手い。確実な足止め……ではなく、仕留める戦い方というのもあって、引くに引けなかった。
アカメの声が途中で途切れたのもあって、早急に戻ろうとしたのに、これだ。まだまだ若いという事だな、自分も。
「それにしても、どんどんとアカメとの距離を離される……それが狙いか?」
途中で足を止めてアカメの方に戻ろうと思ったが、その時には強く、狙って前に出ようとしたら弱く細かくの魔法矢でこっちを攻めてくる。
「全く、あいつはどれだけ狙われるというのか……」
異常なまでの警戒と言うか、引き離し行為。向こうのクランが本気でアカメを狙っているというのは良くわかる。だが、そこまで警戒する必要があるかと言われると疑問ではある。正直なところ、手合わせをした感じ『かなり無理をしている』のは良く分かった。ガンナー自体が珍しいというか数の少ない職ではあるが、対処さえできれば『強いプレイヤー』ではない。弱点でもある接近戦に対処できるようになったが、無理をするとログアウトしてしまう弱点もある。
「不思議な奴だ」
また飛んでくる魔法矢を斬り落として一息。さっきよりも攻撃頻度が細かいが、威力が強い。近寄られたら嫌だという事が良くわかる。
「こいつが前菜って言うのも無茶な事を良いよる」
儂らのわがままな王は無理を言う。
「だからこそ、面白いんだが」
攻撃が止んだ瞬間、すぐに納刀して体を捻りぐっと溜めながら飛んできた方向を見据える。少しだけ時間がかかるスキルだが、距離を詰めるには良いだろう。その間に何度か飛んでくる魔法矢を何発か受けるが、これは仕方ない。
「いくぞ」
足の溜めを開放し、一歩踏み出すと共に加速。
今までと同じように飛んでくる魔法矢をジグザク走行で避けながら、刀をぐっと掴んでそっちの溜めはぎりぎりまで開放しない。魔法矢が直撃はしないものの、叩き落せないので避けなきゃいけないが、死ななきゃ安い。飛んでくる魔法矢をぎりぎりで避け続け、ぐんぐんと加速。
「良し、いたな」
そして漸く、本体を見つけてさらにぎゅっと刀を握りながら前進。さっきよりも強い一撃が飛んでくるが、身を捻って避けてさらに接近。距離にして十数歩って所で紫髪の目が髪の毛で隠れている何ともおどおどしたようなプレイヤーを目視。
「貰ったぞ!」
今までの鬱憤をぶつけるかの如く、一気に刀を振り抜いて斬撃を飛ばす。ひたすらに溜めと助走をしていた分、強力なのが向こうに飛んでいき、メタリカが立っていた地点を抉り飛ばすのだが、手ごたえ無し。
「足も速いか、接近戦対策もばっちりと来た」
ふんわりと飛び上がっているのを見て、すぐさま構え直し。上空からの魔法矢の連打をステップで避けながらどうするか考える。上に攻撃するのは良いが、上を取られているのは頂けない。こっちも上がれれば良いんだが、流石に壁を駆け上がったり、ジャンプで同じような高度まで上がるのは難しい。
「……こいつが前菜なんてなんの冗談なのやら」
振り抜いた刀を戻し、撃ち落される魔法矢を避けつつふわふわと飛ぶ相手を見据える。魔法矢の攻撃と空中でのジャンプは別物。滞空はゆっくりと落ちているだけで、機動力の部分で言えば攻撃が途切れた瞬間、高度を維持する時が一番俊敏まである。
「こっちの切れる手札を駆使か……うむ、強敵は燃える」
魔法矢と滞空のジャンプ、その合間をピンポイントで攻撃して一撃で倒すか、落とすかしないと勝ち目はない。幸いなことに向こうの移動速度はそこまで速くないので、こっちの足の方が速い。なので此処からは向こうの息切れするまでの我慢勝負だ。中距離戦にはなるが、しっかり視認出来ている相手で、発射動作も見れるのならいける……はず。
「そう思ってたんだがなあ」
距離を詰めた後も、同じ頻度で撃ってきているのをどうにか避けつつ、タイミングを計る。斬撃を飛ばすのにある程度の溜めが必要なのと、少し距離が遠いのがネックか。
「……良い強敵だ」
にんやりと口角を上げて、溜めを作りながら機会を見る。
まだまだ面白い相手が多いな、この界隈は。
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