516話 漸く

「勝負は一撃、一瞬で片を付ける」


 降り注ぐ魔法矢をステップで避け、タイミングを計りつつ深く呼吸する。こっちが下から攻撃するのを感じたのか、タイミングをずらし、細かい魔法矢に切り替えて脚を使わせ、手を封じてくるが、それだけじゃこっちには届かない。確かに一撃は並みの相手以上の火力で、手数も多い。ただそれは、こっちの攻撃を嫌がっているという事に他ならない。


「さっさと戻って来いと言われているが、此処で仕留めないといけない相手と言うのもよくわかる」


 ほったらかしにしておけばアカメ以上の射程での魔法攻撃に晒される。元々分断が目的だったのだろうが、分断するのには少々戦力として過剰だったという事だ。そしてこの儂を狙ったというのも運の尽きよ。強敵になればなるほどこっちは燃えるというのもある。


「やはり、このゲームは広い」


 にぃーっと口角を上げ、暫く撃たれまくった後、さっきよりも強めに溜めを開始し体を捻る。この飛ぶ斬撃。スラッシュなりと色々名称はあるのだが、儂のスキルはあんなお手頃遠距離攻撃なんてものじゃない。次に使うのは溜めれば溜めるだけ威力と射程を伸ばせる必殺スキルよ、1日1回しか使えない制約はあるが、出し時は此処しかない。


「ククッ……勝負じゃな」


 こんなにも沸く相手がいるとは思わなかった収穫は大きい。雑魚を散らすだけの勝負というのは面白くもない、一芸に秀でている面白い奴こそ、戦うべき相手だ。そしてこっちが攻撃をする時が決着で、そのタイミングは、此処だ。

 滞空を維持の為のジャンプが魔法なのかスキルなのかは分からないが、同時に使用は出来ず、どうしても発生する隙を狙い、溜めていた力を一気に開放して抜刀。弧型の斬撃が滞空維持のために攻撃をやめ、飛び上がる所を強襲して斬り落とす……事は出来ず。ぎりぎりを避けられるのだが、にんまりと笑う。


「それも、分かっておったわっ!」


 振り抜いた刀をすぐさま斬り返して2発目。高度維持をし攻撃に切り替えた瞬間を2羽目の燕が正面を捉えて斬撃が正面から入り、そのまま力なく落下する。

 

「やはり強いクランには強い奴が揃うか」


 右肩に突き刺さった魔法矢がばちばちと電撃を発した後に爆ぜる。一応叩き落して倒したのは良いが、利き腕をやられたというのは結果的に半分ほどやられていることになる。厄介なのは状態異常扱いで利き腕がダメになってるところだな。

 相手は流石に直撃を貰い、無防備に落下したのもあって相手は消えていくが、時間と戦力を結果的に削られた形になる。


「0よりはマシかのう」


 削れたHPを回復した後、今まで散々突き進んできた道を戻り始める。





「カコルさん、本当にそろそろ!」

「分かってるってのー!」


 だいぶじれてきてるな、あいつら。何だかんだで立ち回りが確立出来れば、相手にしやすいというか、時間稼ぎも、捌くことも簡単だったって事。やっぱり急造のメンバーで連携なんてすぐできるもんじゃない……って思ったけど、うちもそうだから思い切りブーメラン刺さってる。まあ、うちはちゃんと分業だから、そこまでかみ合わせが悪いわけじゃなかろ。


「まあ、不意打ち食らってふらついてる時に仕留めきれなかったのを恨むんだな」


 カコルがそこまでがっついて勝敗を求めているわけでもなく、そんなカコルをカバーにガヘリスが動くので、どうしても手が遅れる。ガヘリスがガンガン前出てカコルがカバーは理にかなっていない。そういうのを含めて、どうしても攻撃と防御がしっかり分かれているので、殴りヒーラーが腐り気味。

 殴りなのもあってMP総量もそこまで高くなく、細かく弱い防壁だとしても数は張らせているから、MP消費もバカにならない。ガウェインの奴の指示で火力を出すのはカコルって戦法を取らせたんだろう。


「ログアウトにビビッて攻撃の手が緩むのは、頂けんなあ、私」


 何度目かのカコルの大振り、それでもしっかりと避けて反撃射撃を食らわせるとしっかり防壁を張って防御を入れてくるので、曲撃ち跳弾で、カコルの後ろにいたガヘリスを狙う。

 その直後、うめき声と共に手が止まるガヘリスをよそに、振り切った体勢のカコルにも連射。いてて、と軽い感じにダメージを貰いながら得物を持ち直してまた攻撃を振ってくる。この手の相手は一回ムキになると執着しやすい。


「やっぱり私ってなかなか強いよな」

「なかなかって言う神経が分かんないですよ……」

「もー、HPなくなるー!」


 障壁を砕き、連射で叩き込んだ攻撃で明らかにカコルの動きが鈍ったのを見て、撃ち切ったマガジンを弾き飛ばして入れ替え装填完了。そのまま障壁を張り直される前に、ガヘリスへの牽制、カコルへの射撃を繰り返す。此処まできたらもう、勝ったも同然……と言いたいのだが、立ち回りが確定したところで倒しきれるかって言うと、それはまた別の話。


「やっぱり手が足りん、弾も無限にあるわけじゃないし」


 普通に殴ってダメージ出せるってすごい利点だよな。あと魔法、魔法もMPさえあれば撃てる。此処まできたらガンナーの固定ダメージ減らした調整やらなんやら、必要だったんか?って思ったけど強力なのは強力だから、仕方ないか。

 そんな事よりも今よ今、多少なりと攻めに転じれるようになったけど、弾の消費量を考えるとちょっとえぐい。まさかとは思うけど、これを見越して弾の消費をさせてやろうって魂胆かもしれん。明らかにマガジンの消費量多いし。


「ああ、もうさっさと戻って来い、あいつは!」


 避けて射撃を続けているけど、それも限界だわ。マガジン結構消費しているし、グレネード使って片付けたい所だけど、多分あのでか斧で弾き飛ばされるか防御されるのがオチか。

 

『今どこだよ!』

『もう着く!』


 ガヘリスカコルのコンビネーションを避け、反撃射撃は控えて刀を使い、受け流しやら突きでの牽制を入れつつ凌ぎながら移動。ちょっとでも合流しやすいように爺が走っていった方を背中にしつつ、銃と刀の二刀流で攻防を続ける。


「そっちはメタリカさんがいますよ!」

「良いんだよ」


 カコルからのガヘリスの殴りをバックステップで避け、銃を構えて防壁を張らせて撃たない。こういうフェイントをやるのも大事なんだろうよ。そして何度目かの障壁を割り、カコルの一撃を刀で受け……ると思い切り吹っ飛ばされて転がる。そこをすかさずガヘリスが追撃、が来ない。


「遅いわ!」

「すまんな」


 片腕をぶらつかせたままの関口の爺がメイスの一撃を返して私の前に。


「強敵が多いな、アカメは」

「だろー?」


 軽口叩けるなら、まだいけるな。

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