482話 姉妹

 結局の所、爺との戦闘に割って入ったのがアリスで、盾をねじ込んで視界を塞いでから距離を取る形になったのだが、動物みたいな感じで引き剥がされた気がする。

 

「あと何人呼んだ?」

「2人っす、それで7人っす」

「ヤス殿は戦力外と言ってましたな!」


 私の事をヤスと松田の奴が抑え込みながら、報告を聞いておく。

 今の所、爺とアリスで前2、松田とヤスで中衛2、私が後衛1なので、配分としては…えーっと、前1後1が来るはずか。戦力バランス的に後ろが弱くなってくるけど、仕方がないか。そもそもヒーラー役が後衛前提だったのを考えれば313ではあるわ。


「とりあえず……あいつをぶん殴ってどっちが上から決めてやりたいんだが?」

「アカメ殿、ここはステイですぞ!」

「そうっす、殴り合ったら負けるっす」


 そんな事は分かってる。

 どちらかと言えば勝敗じゃなくて根性がどうのこうのって話。


「ええい、離せ、まだ決着はついておらんじゃろう!」

「……」


 向こうは向こうでアリスが抑えつけ、首を横に振って『ダメ』ってのをアピールしつつ、私の方を睨んでいる爺に対して睨み返す。

 

「決着付けてから、話するんだっての!」

「これは儂と奴の根競べよ!」


 2人揃って後ろで羽交い絞めをしていたのを振り解き、一気に駆け出して拳を作る。お互いの獲物は危ないからって取り上げられているので本当に純粋な殴り合いになる。そして駆け出した勢いを殺さず、左腕を後ろに持って行ってから一気に振り抜く。

 ぐしゃっと嫌な音をが響くと共に、向こうの右手が私の頬を捉え、こっちの左手が相手の頬を捉えている。


「この、クソ爺……!」

「若造が……!」


 クロスカウンター状態で相手の頬に拳がめり込んだ状態からすぐに引いて、反対側の手で反撃。相手の拳とぶつかり合い、暫く拮抗してから更に押し込んで相手の顔面を捉える。が、当たり前に向こうもこっちの顔面を捉えてくる。相手の拳がこっちの頬にめり込んだ状態でにぃーっと口角を上げながらボコすかと殴り合いを続ける。





「……」

「おお、良い殴り合いですな!」

「好きにやらせておけばいいっす、ああいうのはすっきりするまでやらせておいた方がいいっす」


 アリスだけ少しおろおろとしながら、松田とヤスは殴り合いを遠巻きに見つつ次の予定を話し合う。


「呼んだのが前衛後衛セットの奴なので次で揃うはずっす、後は姉御がどうまとめるかっす」

「そういえばアカメ殿ってどういう人物なのですかな?」

「……」


 ヤス以外の2人がうんうんと頷いて、殴り合いをしている2人を見つめる。

 なんだかちょっと楽しそうにしているのは殴り合いをしている2人にしか分からない世界なんだろう。


「そうっすね……まずはガンナーの第一人者ってのが有名っす、その次は露店の区画整備を進言して商人クランを潰して運営を動かしたのが大きいっす」

「ガンナーのアカメ……って、あのアカメ殿ですか!?」

「あの、かは分からないっす、でも同じ名前で一番有名なのは確かっす」


 そんな事を言いながら次に呼んでいるプレイヤーとの連絡を取りつつ、ヤスが自前のメモ帳を確認して、追加のプレイヤーを入れるかどうか考える。あくまでもアカメがメインで人数を決めているので、勝手にこっちで人数を増やすのはご法度だと思っている……が、集められそうな人員はピックアップしておく。我ながら優秀なマネージャーっぷりだ。


 そんな事を思っていればひときわ大きく「ぐしゃあ」と音が響く。

 その音を聞いて顔を上げれば、綺麗にクロスして相手の顔面に拳がめり込んだ状態で静止している。


「終わったっす?」

「綺麗なクロスカウンターでしたな!アリス殿、引き剥がしにいきますぞ!」

「……」


 何だかんだで仲良くなっているアリスが爺侍を、松田がアカメを引き剥がす。結構いいパンチがそれぞれ入ったのか、抵抗なく引き剥がされ、ぐったりしている所を調合したポーションを松田がぶっかけて回復を入れる。


「はっはー!これで大丈夫ですぞ!」


 ただそれでも気絶している状態なので二人とも起き上がらない。

 

「お願いするっす」


 そう言うとアリスと松田、それぞれが気絶している2人の頬をぺちぺちと叩いて起こす。流石に決着がついたのにまた殴り合いする事は無く、2人揃って大きく息を吐きだす。


「爺、名前は」

「まずは自分から名乗るもんじゃろ」

「私はアカメだ」

「ふむ……儂は関口じゃ」


 とりあえず和解したようで、向かい合いながら座って自己紹介をしている様子を見てほっと一息。


「攻撃に回れる前衛ってのも分かったし、松田の回復も有効ってのが分かった……残り2人でとりあえずはいけそうだな」

「そうっすね、最後の奴もそろそろ来るっす、そしたらパーティ完成っす」

「どうせ最後の奴も癖があるんだろ?」


 正解。





「それにしても前衛職って何でこうも戦闘狂が多いのかしら」

「がんがん前出るのが仕事っす、そりゃ自分の強さが大事っす」

「普通じゃろ、しかもここは闘技場じゃし」


 何となくだけどそういう返しをしてくるって思ったわ。

 とりあえずだけど、私の理想的なパーティに仕上げてくれるヤスは良いマネジメント能力を持っている。何かギリギリになっていきなり裏切りそうな名前をしているからちょっと不信感がぬぐえないけど。


「到着したみたいっす」


 その言葉を聞いて、リスポンしてくる地点をちらっと見ると、2人いる。

 たまたま一緒になったか?何て言うか、横並びなんだけど、姿が全部一緒なんだよな。特徴的なのは髪色か?赤髪、青髪でメッシュがそれぞれ隣の奴の髪色で揃えている。どっちも女のコみたいだが、結構ボーイッシュな感じ。


「……どっちがどう?」

「えーっと、前衛と後衛で1人ずつっす、姉妹なんですけどどっちがどっちかは……分からないっす」

「分からんて……どういう職かは分かるだろ?」

「前衛は騎士タイプで防御よりっす、後衛は珍しい風魔法の使い手っす」


 風魔法ってどのゲームでもいまいちな印象があるんだよなあ。ドラゴンのゲームじゃ地味すぎるし、幻想なゲームでも弱点を付けない、そういうのを考えていくとパッとしないんだよね。火と風の魔法を合わせて爆発魔法なんてコンビネーションも出来るRPGもあったけど、単体じゃやっぱり微妙な所よな。


「……あいつらの使いにくい所って、2人セットじゃないと駄々こねるんだろ」

「そうっす、よくわかるっすね?」

「仲が良いのは良いけど、度が過ぎるとな……どういう条件で話いれたんだ」

「2人入れて問題なし、セットで扱います、って感じっす」


 バイザーが元に戻ったヘルメットにばしっと手を当ててため息一つ。

 

「いいマネージャーっぷりだよ畜生」

「褒めても何もでないっす」

「人材は集める、どう扱うかは私の手腕ってか……」


 そうっす、と返事をする上に集めた連中も私の事を見てどうするの?って感じに注目される。まだあの姉妹の事を見てないんだから、これで決定かどうか決まってないだろうに。


「それじゃあまあ、見てみるかね、実力を」

 

 そろそろ対戦ルームに籠ってるの辛いしな。

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