481話 老人
「ん-、安定しないのが気になるが……選択肢はないか」
「回復量含めて優秀っす、ミスするって点を除けばっす」
「誰かに渡して投げて貰う?」
「投擲持ちを探すの大変……とはいかないっす、自分あるっす」
「私も投擲はあるけど、前に出れないからダメねー」
調合したポーション瓶をアリスに見せて説明をしてから投げて効果の実証をしている薬師を眺めつつ次を考える。妥協をしないというのは大事だが、それはあくまでも余裕がある時に限る。今回で言えば時間的余裕がないので妥協するという形になる。全員集めて、そこからすり合わせと言うかどういう立ち回りをするかを話して実践ってのを考えるとこれでも少し遅れているくらいだ。
「距離さえ近ければいいし、アリスと組ませれば問題ないでしょ」
「可哀そうな気もするっす」
「ああいうのは勝手に喋らせておけばいいのよ」
勝負事になった時、しっかり動いてくれればもういいかな。円滑なコミュニケーションがとりにくい同士だから、壁として運用するのを考えれば離して使う事はあんまりないし、だったら今からくっつけておいた方がいいだろう。
「おーい、名前、名前」
「おお、そういえば言ってなかったですな、拙者、松田と申します」
薬屋松田ってありそうな名前だな。
「アリスは松田と一緒に組むんだから、ちゃんと話して聞いてやれよ」
「……!」
じとーっとこっちを睨んでくるのでため息一つ。
「一番被弾する奴に回復役を付かせるのは普通だろ?しかもバフも使えて援護射撃も出来る……組み合わせとしてはそこしかない」
「……」
「そうむくれるなっての」
少しだけふくれっ面を向けた後、ぽかぽかと頭を叩いてくるのでそれを手で受けながら次の人選の話を聞く。一応これで前衛1、中衛2、後衛1。これで後は3人くらい、前衛に2人、後衛に1人いれば十分立ち回れるはず……地味にヤスも戦力換算してるけど、しゃーないわな。
「それで次のは?」
「とびっきりの前衛っす、ものっそい気性難っすけど」
ばしっとフルフェイスのメットに手を当てて一唸り。
ああ、くそ、どうしてこうも難しい連中ばっかり集めてくるんだ、こいつは。
「何でこうも、めんどくさい連中ばっかりなんだよ」
「余りものには福があるっす」
「ついに言いやがったなこいつ」
って言うかイベント開始1週間を切っている状態で有望な奴はまともなクランに入ってるだろうし、あまりものにはあまりものになる理由があるって事か。いや、それを前提での話だったが……まあ、落ち着け。
「それで、次の奴はどんなのよ」
「とびきりっす」
そんな事を言ってるとアナウンスが響き、『乱入者が現れました』の声と共に、向かい側で転移の輪出て消える。瞬間、目の前に斬撃が走るので軽く後ろに引いて咄嗟に回避。するが、ヘルメットの分だけ幅が出ていたのか、ガシャンと音を立ててメットのバイザー部分が吹っ飛ぶ。こういうの、全部終わったら元に戻るけど、何かやられたって感じが腹立つ。
「で、どういう相手だ」
「見たらわかるっす、じゃあ頑張るっす」
ヤスの奴がアリスと松田を押して私達と距離を取る。
この手のいきなり攻撃を飛ばしてくるような奴って大体危ない奴だが、一回でもねじ伏せてやったら結構従順になる場合が多い。何だろうなー、このRPGとかでよくあるイベント、勝たないと仲間にならないけど、負けたらゲームオーバーって感じの。自分自身でこんな事になるとは思ってなかったが。
「もう、ついでに他の奴らも呼んどけ、纏めて相手するわ」
「クランマスター殿は優秀ですな!」
「今から苦手職とやりあるんだからだまっとれ」
そう言うとアリスが松田の頭を抑え込んでじっとさせる。あいつも扱いがよく分かって来てる。
「さーて、どんな奴かな」
斬撃が飛んできた方を見ながらARを下ろしてHGを脇から抜いて小さく構える。
近接戦をしてくる相手に長物で戦おうって気はないし、飛ぶ斬撃を使うって事は刃物系だろうから、銃剣じゃ分が悪い。銃格闘はそこまで得意じゃないってのに、全く。
「少しは楽しめる相手だといいのう……」
「老人はやりにくいな」
白髪でしっかりとした和服、見たまんま侍って感じの爺が私の目の前で刀を鞘に納める。爺で着物の侍、居合型ってすげえ渋いチョイスだ。
「では……行くぞ……!」
そこそこの距離がある所から、ぐっと構えて少し溜めると大きく踏み抜いた音をさせて眼前に。おいおい、マジかよ、ちょっと考える暇もないじゃないか。兎に角反射的に動いて居合の太刀筋、その延線上にHGをねじ込んで防御。いつもの金属音ではなく、細く甲高い音が響く。そして最後にきぃんと音が響く。
「マジか」
銃口の先、数センチの所が切断されて宙を舞う。どんだけ鋭いんだよ、あの刀の切れ味は。とりあえず銃の機構的には問題ないから、撃つのは大丈夫。ソードオフみたいに銃身を切り詰めても問題ないし、大丈夫……の、はず。
「ほう、今の一撃を防ぐとは……やりおるのう」
「こちとら近接戦のプロ相手に散々やりあってきたんだよ」
弾き飛ばされて少し距離を取った所、返す刀の袈裟斬りをバックステップと尻尾の併用で体勢を崩さないようにしつつ、小さく構えた状態での射撃で防御に回させる。当たり前だけど、あんだけ高速移動して、殆ど見れないレベルの振りの速度の奴が近接射撃くらいで怯むわけもなく、金属音をさせて銃弾を叩き斬ってくる。
うん、これくらいはバイオレットの奴もやってきたし、マイカに至っては避けやがる。驚きもしない防御方法だし、どうやったらいいかもわかっている。コンパクトに構えた銃、撃つ瞬間に手首を捻り、銃弾を曲げて防御のリズムを崩す。案の定、銃口を見ての防御方法だったので、直線の軌道で打ち落とそうとしていた所、するっと抜けて肩口に一発。軽くうめき声を漏らして返しの刀で距離を取ってくる。
「ふむ……接近戦に長けてるようじゃの」
「んなわけないだろ、こちとら必死だって」
さっきと同じように手首を捻り、マガジンを勢いよく飛ばすと共に次のマガジンを入れる。残弾は残っていたけどぶつかっている最中に弾切れなんて起こしたら積み状態よ。にしても、直撃してないとはいえ、掠めているだけで細かくダメージが入るのはやっぱり避けきれてない証拠だな。
「何でこうも私の周りは接近戦に強い奴が出てくるかな」
「前衛職が多いからっす、必然っす」
「解説どうも!」
ヤスの横槍解説を聞き流してからバックステップを織り交ぜた射撃を繰り出し、いつものように距離を取って……いたら、溜め居合で詰めてくるか?いや、距離を取らないとこっちがきつい。選択肢の幅が相手の基本スタンスのせいで狭まってるって言うのに博打が過ぎる気がする。
「手数の為に距離を取っても、接近戦をしても厳しいってキツイ」
「ほほ……行くぞ」
連続射撃で牽制……いや、牽制じゃなくて本気で狙ってるんだけど、余裕の感じで斬って来る。あー、自信無くす。私って強いガンナーだと思ったんだけど、そんな事もないな。
「銃操作じゃなくて、銃弾操作が欲しいわ」
連続射撃の終わり、装填の一瞬を狙って納刀、溜めを少し作ってのダッシュ居合(仮)。どういうスキルか一回は見ているから防ぐのは余裕……でもないけど、さっきよりは直撃しない……はず。こういうのは、刀を振り抜くポイントを決めて一気に突っ込んでくるわけだから、引くよりも押す。
「ほう、対処が上手いのう」
「そりゃどーも」
相手が刀を抜き切る前に射撃しながらの前身で体をぶつけて振り切らせない。全く、柄にもない接近戦をしている上に体を使うとは。こういう事が苦手だからガンナーが良いのに。これで選択したスキンが悪魔殺しの方だったら、積極格闘だと思われたのかね。
「まー、こっからどうするかはまだ考えてないけど」
体を密着させて相手の動きを制限させつつ、どうするかを考える。
こっちも両手が塞がっているというか、抑えに回しているから、下手に銃を手放して銃操作……って動作をしている間に真っ二つか。ああ、もう、何でこうも大変な相手ばっかり。
「見た目と喋りだけが老人で中身は若い子ってザラだよ、なっ!」
抑え込んでいる所、下から膝でお互いの手を弾きあげる。力を入れあった部分に上方向の力が加われば、銃と刀が空を舞う。
向こうは向こうで驚いた顔をしつつも、楽しそうに口角を上げる。こっちはこっちで一手でもしくじったら負けるって言うのに気楽なもんだ。
宙を舞った刀と銃、咄嗟に手を飛ばしてどちらでもいいので獲物を掴む。してすぐに構えなおして相手に獲物を向ける。
「ここいらで止めといた方が良い気がするけど?」
「ふむ、同感じゃの」
私の銃が胸元に付きつけられ、相手の刀が喉元を捉えている。
が、どっちも引く気が無いので膠着状態。
「先に引きな」
「こっちの台詞じゃ」
この爺め。
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