461話 これでしか分かり合えない

「相変わらず此処も賑やかよね」

「PvEが基本なのでバランスが良いとは言えないですがね」

「まー、モンスターだけだとパターンになるし、対人需要はあるからいいんでない?」


 相変わらず結構な賑わいを見せている闘技場の受付を犬野郎が済ませているのでそれを横目に、受付にもたれながら周りを見て一息。そろそろいつもの「あれ」買っておくかな。


「何だかんだで付き合い良いですよね」

「見知った相手ならな」

「人相と恰好だけ見たら危ない人ですしね」


 くつくつと笑っている犬野郎にため息を吐きだしつつ待機室に飛ばされる。

 そういえばあまり気にしたことなかったけど闘技場って基本対戦ルームを作ったら専用の所に飛ばされるから、コロシアムみたいな1場所1試合しか出来ないって事はないのよね。


「やるんだったらあいつら呼んでおけば良かったな」

「映像取れますから後で見て貰ったらどうです?」

「いや、7日目に1人ずつ戦う予定だから」


 1週間も時間をやったらちょっとは立ち回りが良くなるだろう。

 何日、何ヶ月、何年やっても一向に上達しない下手くその方が圧倒的に多いけど、犬野郎がクランに抱き込んだって事はそれなりに動ける算段が付いてるだろうから、そこに一応の希望を見出してはいる。


「お、ボス……珍しいな闘技場にいるなんて」

「デートのお誘いだからな」


 そういえばトカゲの奴は闘技場常連だったわ。

 クラン抜けてからあんまり関りが無いから忘れがち。


「って言うか恰好もそうだけど、装備どうしたんだよ」


 私がスーツを着てないでガンベルト付けてないと心配されるってどういう事だよ。いや、普通と言えば普通か。いつもの恰好をしてないって事は何かあったと思う……にしても、いつもの私を知っているならそこまで気にしないような感じもあるが?


「イベントではっちゃけた結果よ、っと、そろそろ準備出来たっぽいし、行くわ」

「たまには顔を出せ、寂しがってるぞ」

「へいへい」


 生返事を返しつつ、1つ通知が来るので開くと、対戦相手の名前やら部屋の条件が開示されるが犬野郎の奴なので特に問題ないので承認。あっという間に転移されて遮蔽の無い、下が砂地のだだっ広いエリアに転送させられる。


「有利すぎん?」

「タイマンで遮蔽あってもしょうがないじゃないですか」


 剣と盾だけ持ち、鎧を外した犬野郎が片手でくるくると剣を回しながら私の対面で待機している。こっちはこっちで買いたて、でもないアサルトライフルを構え、インベントリから銃弾を一握り分出すと共にスーツのポケットに突っ込んでおく。あー、こんな事ならあいつらの教育する時にガンベルトくらいは作っておけばよかった……んだけど、それも含めてゴリマッチョの奴が全部コーディネートするって言うから任せっぱなしだったりする。

 

「そういえば久々に戦うか」

「そうですね、暫くぶりかと」


 そんな事を言っていれば試合開始の合図がなり、それに合わせて盾を構えた状態で突っ込んでくる犬野郎を見据えながらこっちもARを構えてどっしりとその場に据える。機動力的にはどっこいくらい……じゃないな、あいつ鎧の重量分抜いてるから向こうの方が速そうだ。

 とにかくこっちは撃たないと始まらないので、犬野郎の盾に目がけて2連射。レバーアクションを2回挟んで薬莢2つ飛んで行くのをちらりと見つつ、キィンと甲高い音を立てて盾で防がれる。やっぱり盾の使い方うまいな、正面から受けるんじゃなくてしっかり横に逸れるように構えているし。


「それで、任せたガンナーは良い仕上がりですか?」

「ん-、教えた事はやるし、出来るもするから見込みはまだあるな」

「やっぱり良い指導してくれますね」


 更に撃ち込んだ弾を盾で弾かれる。そして距離を詰めて振ってくる剣の一撃をARで受けて、また金属音を響かせつつ、何度か打ち合い。


「1週間でどれくらい仕上がるもんですか?」

「あれでも温い感じにやってるから……ん-、そこらの量産ガンナー以上にはなるっしょ」


 強く打ち合って膠着した瞬間に一瞬だけ、尻尾を使って堪え。押し込まれたのを返すと共に尻尾を使い押し返すと共に、盾を踏み場にして後方へと飛び上がる。


「やる気はあるし、向上心も悪くないけど、私にいわせりゃぎらつきはないね」


 着地するまでの間に何発か更に射撃しつつ、着地は尻尾を使って軟着地。それにしてもしっかりと盾で全部防いでくるあたり、やっぱり防御性能が高すぎるだろ。守る時は守る、攻める時は攻める。ちゃんと攻防の切り替えを出来るのはこいつの強みだな。


「流石にアカメさんレベルは難しいじゃないですか」

「ま、そうそういないわな」

「でしょう」


 着地をして、ポケットに突っ込んでおいた銃弾を一掴み。すぐさまARに装填しつつ接近し、攻撃を振ってくる犬野郎に対して尻尾を使い、上体を反らしたり、横っ飛び等を駆使して回避を入れながら装填完了。多少距離を取って、四つん這いの様に地面を這うとぐるりと足払い……ではなく、尻尾で足払い。


「おっと……それにしても、こんなにガンナーが動けるのは一握り何ですか」

「種族特性まで使ってやる奴いないし、使う必要もないでしょ」


 うまい事、尻尾で足元を掬い、犬野郎が尻もちを付くのでこれまた尻尾で上体を起こす……のは無理なので、這いつくばったままで射撃。尻もちを付きながらも盾で防いでくるのはちょっと凄すぎじゃねえか。


「ステータスもスキルも無難な構成だと並なレベルにしかならないでしょ」

「特化や特徴があった方が良いと言う事ですか」

「あんたもその一角じゃない」


 剣を使い、立ち上がり体勢を整える犬野郎を見て、射撃で少しでも遅らせながらこっちも立ち上がって体勢を戻す。


「特化系は相性もありますからね、ガンナーだと距離次第になってしまうのでは」

「まあ、確かに……私は全部いけるけど」


 うん、いけるいける、拳銃も使えるし、長銃も使える。何だかんだでオールラウンダーだから、私って。


「……やっぱりアカメさんおかしいですよ?」

「類友だろ、類友」


 低く剣を構えて大きくスタンスを取る犬野郎を見ている瞬間。目の前から掻き消える。

 一瞬頭が理解できずに前方180度を見た上で、体勢低く突っ込んでくるのをどうにか視認出来たとは言え、反応が遅れる。そして十分接近した犬野郎がそのまま抜刀からの斬り上げ攻撃を中途半端に構えたARを体の間にねじ込むと、視界が明滅する。

 

「ぐっ……ちっとは手加減したらどう?」

「したらしたらで怒るでしょう」


 そのままの勢いで体がかなり上に浮き、その間に犬野郎は剣を振り抜き、くるりと逆手持ちに切り替える。


「これ、昔から好きな技でしてね」


 そのまま逆手持ちの状態からぐりいっと体を捻り溜めを作る。犬野郎の、Vit重視の割に動作が速すぎる。こっちはまだ着地もしてないし、銃を構え直してもいない。


「そういうのは、小学校で卒業しておきなさいよ」

「いつでも少年なんですよ、私は」


 空中じゃ尻尾は使えない、銃は持ち直しても構えるまでに時間が掛かる、空中で撃ったところで体勢が悪い。全く、こういう事をしてくるから犬野郎の相手はきついんだっての。とにかく空中にいると身動きが取れない。ああ、まったく、無茶ばっかりよ。


「中々厄介なこって!」


 素早く思念を飛ばしてARを銃操作。しっかり溜めを作って、落下に合わせて振り抜いてくるのに合わせて着地点をずらすために銃操作を使って自分自身をボールの様に思い切り斜めに叩きつける。これくらいやらないと威力が出ないせいで軌道もずらせないってんだから大変だわ。

 勿論銃操作で自爆ダメージを貰う方が安いと判断したからで、結果的にぎりぎりで回避は成功。前髪が数本飛び、少し焦げ臭くされながら、と言うおまけつきではある。


「あー、いて……」

「ふむ、あれを避けられたの2人目ですね」

「1人目は」

「うさ耳生やしたバトルジャンキーですよ」


 なるほど、こりゃ強敵だわ。

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