460話 デートのお誘い

「それで、防具はどうしました?」

「ゴリマッチョ……薫に仕上げて貰ってる」

「またスーツですか」


 秘密、なんてぽつりと言いながら手の中で銃弾を転がしてふいーっとため息一つ。犬野郎の奴に誘われてガンナー教育を進めて5日目。教育と言うか育成と言うか、とりあえずやる事は指示を出しているので後は報告待ち。もっと反抗的にくる、何て事を考えていたのだが、言われた通りにやるし教えた事をやるから張り合いがちょっと無い感じがある。


「私もスーツを仕立ててみますか」

「あんたは鎧の方が似合うでしょ」


 そうですか?と良い顔をしながらいつもの様にティーセットを取り出して一服。私が葉巻や煙草を吸っているのはどちらかと言うとロールプレイや考え事をする時に集中する為だったりするのだが、こいつのは本当に趣味っぽい。


「そういや3桁近くメンバー居るけど、全然会わんね」

「前線のクランハウスに常駐する人もいますし、本部にいるのはほんの一握りですよ」

「資金溜まってんなあ」


 てきぱきと用意したティーセットで一服している犬野郎の向かい側に座って、私の分も入れて貰い、それを啜りつつ待ちの時間。

 いつもならマグロの様に動き待っているが、装備が揃ってない状態で銃弾の材料取りに行くには、ちょっときつい。雷管のハードルが高いから、それを回収するにしてももうちょっとしっかりした装備で固めてから動きたいところ。

 

「……んー、ようやく全部売れたか」


 メニューを開き、出品した物を確認すれば全部売り切っているので手数料抜いたりなんだりで20万程の資金を回収。全然足りないので暫くは溜めこみだけど。


「それにしても装備全部だめにするってどんな戦いしたんですか?」

「波のように襲ってくるモンスター相手に撃ちまくって捌いてたらこうなったんだよ」


 加圧シャツの首元をぐいーっと伸ばして離すと、ぱちんと肌にぶつかる。

 そういえばこの格好でゴリマッチョの奴にあったら、良い体してるんだからもっと慎ましくしろって言われたっけか。


「まー、再出発するには良いと思ったけどねー」

「普通なら装備が無くなったら引退する人が多いのにですか」

「装備がガチャのゲームなら引退だろうけど、幾らでもリカバー出来るから、装備無くなったくらいで文句言わんって」


 それにいい成績も残している訳だしな。


「まー、コレクションにまで手を付けるのはあれだったけど……まずは現状復帰が大事だし、暫くきついイベントはないっしょ」

「ミニイベントはずっと開催してるんですけどね、あんまり戦闘職に関係ないですが」

「生産専用?」

「ええ、、質や売り上げなどを競っているのが毎月、毎週と分かれてやってます」

「だから生産連中は腕を競ってるわけか」


 残ったお茶を啜り、おかわりをもらいながらふーんとそっけない感じに納得する。そりゃまあ大々的にやっているイベントが軒並み戦闘職メインってのを考えれば常にやってても違和感はないわな。だからゴリマッチョのやつも唸ってたんか。


「って言うかこんな所で暇してていいんか、クランマスター様は」

「発見済みのボスはだいたいしゃぶり尽くしましたから、新マップは常に更新していますし、危ない時だけですよ、出張るのは」


 そう言うのを聞くと、随分といいご身分でT2Wをやってんだな。高みの見物といわれそうだけど、ボスがどっしり構えている方が良い?あっちこっち周りまくって荒らし回った私とは大違いだわ。


「それにしてもよ、装備と報告待ちの私と違って忙しいと思ったんだけど」

「私の弟の方が内政向きなんですよ、細かい事はクランのNPCもいますから」


 ほんと、このゲームのサポート系NPCって優秀だよな。金がなかったら手に入らないってのはアレだけど、ゲームだからその辺は仕方がないとして。


「ふーん、暇してんのね」

「まあそうですね」


 くつくつと笑っているのを、注がれた紅茶をカップを揺らして回しつつ眺める。


「暇なら模擬戦でもやります?」

「装備揃ってないからなあ……目に見えてると思うけど」

「こっちも盾と剣だけにしますから」


 こうなってくると単純に立ち回り勝負って事か。まー、それならありっちゃありだけど。忍者刀とガンシールドがないと厳しいんだけど。


「まー、それなら良いかしらねー……あいつらが戻ってくるまで時間もあるし、暇つぶしにはいいかな」

「そういうところが好きですよ」

「よせやい」


 ゲーム内で恋愛だの、好きだの嫌いだのってのはごめん被りたいんだけど。

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